CDUはアゲンダ2030の中で、「ドイツは経済界なしには成り立たない」として、企業への負担を減らすことを最大の目標としている。具体的には抜本的な税制改革によって、企業収益に課される様々な税金の負担を現在の約30%から25%に減らす。残業手当にかかる税金を免除する他、年金生活者が再び就業する場合、給料については毎月2000ユーロ(32万円・1ユーロ=160円換算)まで無税とする。
さらに所得税の最高税率が適用される所得額を、現在の6万8480ユーロ(1096万円)から、8万ユーロ(1280万円)に引き上げる。
CDUは、「現在公的健康保険や年金保険などの社会保険の保険料率は、子どもがいる市民で41.9%、子どもがいない市民で42.5%だが、我々はこの水準を40%に減らす」としている。ドイツの企業は、社会保険料の半分を負担しなくてはならないので、高い保険料率は企業収益を減らす。
メルツ党首は、将来の公的年金の上昇率をショルツ政権下よりも低くするという方針を明らかにしている。具体的な抑制率は明らかにしていない。
また減税や社会保険料負担の削減のための財源の一部は、長期失業者らへの支援金を減らすことでまかなう。2024年には難民を含む長期失業者には「市民手当(Bürgergeld)」として毎月563ユーロ(9万80円)が国から支給されていた。CDUは市民手当を廃止し、ベーシックインカム(基本所得)を導入する。基本所得の額は公表されていない。失業者が健康で働ける状態にあるのに、労働局が斡旋した仕事を拒否したり、労働局とのアポイントメントを無視したりした場合には、基本所得の支給が停止される。条件を厳しくすることにより、就労への圧力を高める。
産業用電力価格の引き下げを約束
ドイツの製造業界は、産業用電力価格が米国や中国に比べて大幅に高いことから、政府に対して補助金によって上限を設定することを要求していた。CDUは、電力税や託送料金(送配電網の利用料)の引き下げによって、電力価格を少なくとも1キロワット時当たり5セント(8円)減らすと発表した。ただし電力価格をいくらにするのかは、明記していない。財源には、ドイツ政府が2021年から行ってきたカーボンプライシングからの税収(国内の暖房や車の燃料にかかる炭素税)を使う。CDUはエネルギー政策も転換する。同党は去年12月に発表した選挙プログラム(マニフェスト)の中で、廃止した原子炉の再稼働が可能かどうかを調査したり、小型モジュール原子炉(SMR)や核融合炉の研究を進めたりすることも約束している。
さらにCDUは、苦境にある自動車産業への支援策も打ち出した。具体的には欧州議会が決定した、2035年以降の内燃機関の新車販売の禁止措置を撤回することを求めるとともに、合成燃料(e燃料)の普及に力を入れる。