米投資調査会社ヒンデンブルグ・リサーチを創業したネーサン・アンダーソン氏は、企業の株価下落を招く分析で知られている。
物言う投資家として空売りを仕掛ける同氏は今、最大級の標的に照準を定めている。ヒンデンブルグによれば、インドのコングロマリット、アダニ・グループの野放図な事業拡大は「企業の歴史で最大の詐欺」だ。
アダニ・グループを率いるゴータム・アダニ氏は、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏や米著名投資家ウォーレン・バフェット氏よりも裕福だ。ブルームバーグ・ビリオネア指数によると、アダニ氏の資産は1134億ドル(約14兆6700億円)と世界4位。
ヒンデンブルグはアダニ・グループについて2年にわたり調査。その結果を24日に公表し、アダニ・グループは株価操作や不正会計を何十年も続けていると結論付けた。
アダニ・グループはヒンデンブルグのリポートについて、「選択的な誤情報と、陳腐で根拠のない、評判を落とそうとする主張の悪意ある組み合わせ」だと反論したが、すぐに株式市場で関連銘柄が売られ、時価総額が120億ドル目減りした。
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アダニ・グループはヒンデンブルグに対する法的措置を検討していることを明らかにした。グループ法務責任者のジャティン・ジャルンドワラ氏は資料で、「ヒンデンブルグに対する是正・懲罰的措置に向け米国とインドの関連法を検証している」とコメントした。
ヒンデンブルグのアンダーソン氏は電気自動車(EV)メーカーの米ニコラと米ローズタウン・モーターズの問題を指摘し、ウォール街で注目を集めた。同氏はツイッター株下落を見越した取引をしていたこともあるが、イーロン・マスク氏がツイッター買収に向け動くと、昨年7月にツイッターに対し強気に転じた。
ただ、小さな企業であるヒンデンブルグがアダニ・グループほどの力のある大企業を敵に回したことはない。ヒンデンブルグにとっての問題は、インドの財界のみならず政界でも幅を利かせているアダニ氏を巡る警告に他の投資家が耳を傾けるかどうかだ。
「うその海」
対決の構図はなんともいびつだ。アダニ氏はエネルギーや農業、不動産、防衛などにまたがる企業帝国の構築に約40年を費やしてきた。今はモディ首相と密接な関係にあるとみられており、アダニ氏の野心的な目標は政府が優先的に取り組んでいる課題におおむね沿っている。
アンダーソン氏のヒンデンブルグはニューヨークに本社を置いているが、正確に言えばリサーチとトレーディングの会社で、外部資金を運用するヘッジファンドですらない。マンハッタンの金融界でさえ、アンダーソン氏はそれほど知られていない。
それでもアンダーソン氏は最近成功を収めている。1937年に爆発したドイツの飛行船「ヒンデンブルク号」を社名の由来とするヒンデンブルグは2020年以降、約30社に狙いを定めたが、ブルームバーグ・ニュースの算出によると、問題指摘の翌営業日、これら企業の株価は平均約15%下落し、半年後には26%値下がりした。
アンダーソン氏はこの記事についてコメントを控えた。
アンダーソン氏と同氏のチームは企業を綿密に調べ、不正行為を探っていく。ヒンデンブルグが「うその海」と呼んだニコラのトレバー・ミルトン元会長は昨年10月、投資家を欺いた罪で有罪となった。
アンダーソン氏はコネティカット州の小さな町で育ち、コネチカット大学でビジネスの学位を取得。大学在学中にしばらくイスラエルに住み、ヘブライ大学で授業を受けながら救急救命士として働いた。その後、金融分析会社に勤め、それから富裕層の投資会社のための取引を調べる仕事に就いた。「詐欺を見つけること」が自身の情熱だと同氏は言う。
巨額詐欺事件で服役中に死去したバーナード・マドフ受刑者を連邦当局に警告しようとしたことで知られる法廷会計士ハリー・マルコポロス氏とアンダーソン氏は時折チームを組んだ。アンダーソン氏はマルコポロス氏を「ロールモデル」と呼んでいる。
ヒンデンブルグでは現在、元ジャーナリストやアナリストら10人ほどが働いており、ヘッジファンドが取引に参加することもある。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-01-26/RP2J8ST1UM0Z01