東京ガールズコレクション(TGC)に登場したウクライナの13歳。「news zero」が取り上げたが、彼女の語った思いまで、番組側の指示通り。「お涙頂戴」の場面を演出するために、戦禍を逃れた少女を利用した疑いが濃厚なのだ
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9月5日、日本テレビ系の「news zero」(23時~)でその模様は放送された。3日に開催されたTGCについてアナウンサーが、
「ランウェイにウクライナから避難してきた13歳のモデルが登場しました。そこにはある強い思いが」
と、13歳のブラダちゃんを紹介。3月に日本に避難してすぐにモデル事務所を訪ねた理由について、
「“私はここにいて大丈夫、安全だよ”ってパパに見せたいです」
と語るブラダちゃんに、母親のユリアさんは、
「なにも怖がらないで、うまくいくよ」
と励まし、娘をハグした。その後、ユリアさんは、ランウェイを歩くブラダちゃんの姿をウクライナにいる彼女の父親に見せるために動画を撮り、終わるとテレビ電話で報告。今後の夢についてブラダちゃんは、
「パパが誇りに思ってくれるように日本や世界中で有名になるのが目標です」
と健気に語った。
ところが、TGC関係者が首をかしげながら言う。
「前日もzeroはブラダちゃんに取材し、彼女は“いいモデルになりたい。周りに優しいモデルになりたい”と答えました。しかし、それは放送されず、“お父さんに見せたい”という答えに替わっていた。日テレ側が、自分たちが欲しい答えを押し付けたのです」
zeroスタッフがブラダちゃん側に渡したメモには、
〈お父さんを安心させたい/自分たちぶじよ〉
とある。テレビで流れた答えそのものだ。ほかにも、
〈・本番前の緊張/・お母さんと2人で励まし合っている様子〉
などと書かれ、放送されたユリアさんの姿そのもの。さる番組スタッフも言う。
「ユリアさんは娘がランウェイを歩く姿を、ステージから30メートルほどの立見席で見るつもりでしたが、そこはテレビの撮影が許されない。zeroはユリアさんが娘の動画を撮る姿を撮影するため、ステージから200~300メートルも離れた場所に立たせたんです。娘の出演シーンはTGCから動画をもらえるので、自分で撮る必要などなかったのです」
ブラダちゃんが所属する事務所の関係者は、「幼少期からモデルになるのが夢で、10歳でモデル養成学校に入っていた」と言うが、先のTGC関係者によれば、
「お父さんへのメッセージ、ウクライナへの気持ち、国の代表としての気持ち、といった質問ばかりでストレスを感じていた。父と母が離れて暮らしていることを、通訳が間違えて“離婚”と訳してからは、zero側から執拗に“離婚について聞きたい”と迫られ、最後は泣いて逃げてしまった」
日テレの回答では、取材は「手順が適切」で、「TGCの広報を担当する会社を通じて行い、この会社と事前に打ち合わせ、当日の取材場所や時間はその広報担当者が指示した」とのことだが、TGC関係者は「すべて日テレ側が事前に指示した」と話すのだ。
江戸川大学メディアコミュニケーション学部講師の鎮目博道氏は、
「ウクライナから来た子が頑張る姿を放送することには価値がある。でも、健気に頑張る難民の子という像を作り上げ、13歳の少女に押し付けるのは、テレビマンの傲慢。過剰演出です」
ウクライナ人の姿をねじ曲げて視聴者に伝えるほど、彼らをバカにした話はない。
「週刊新潮」2022年9月29日号 掲載