要するに、市場原理を貫徹させて、制度上、民放をなくし、老舗の日本テレビも、新興のAbemaTVも、米国資本のNetflixも、将来は同じネット動画配信事業者として扱う、との方針だ。共同通信が3月に文書の内容を報道すると、民放は猛反発した。
6月に民放連会長に就任する日テレの大久保好男社長は「放送が果たしてきた公共的役割について考慮されていない。間違った方向の改革だ」と指摘。民放連に「放送の価値向上に関する検討会」を設け、ロビー活動に乗り出した。
関係者によると、日テレを擁する読売新聞グループ本社の渡辺恒雄主筆は、親交のある安倍首相に直接、方針撤回を求めたという。読売はもちろん、テレビ局と関係が深い新聞各紙も、放送法4条を撤廃すれば、偏った番組やフェイクニュース、ヘイトスピーチ、過激な性・暴力表現が蔓延しかねない、などと批判した。
政府・与党からも異論
大胆な改革方針には、政府・与党からも異論が相次いだ。野田聖子総務相は、公安や善良な風俗を害しないこと、報道は事実をまげないことも定めた4条がなくなれば「公序良俗を害する番組や、事実に基づかない報道が増加する可能性が考えられる」と答弁。
自民党の岸田文雄政調会長は「慎重に議論すべきだ。単に技術的問題ではなく、民主主義にも関わる」と語った。
折から、森友、加計学園問題をはじめ、続発する疑惑や不祥事で、安倍政権は激しく動揺していた。北朝鮮の非核化や働き方改革など、懸案も山積み。マスメディアの反対を押し切って、放送改革を断行する体力は、残っていなかった。