小野田寛郎(1922−2014)予備陸軍少尉
(天皇について)
「大体、あの人たちの先祖をさかのぼれば、九州どころじゃない、もっと遠くの別の国から来たんでしょう。よそ者ですよ」
「三百万もの人間が死んだのに、命令を出した者は知らん顔をしている。戦えと我々に命
じた者は、将軍でも何でもその責任をとって腹を切るのが本当だ。それなのに、いまだにのうのうとしていやがる。こんな日本
に帰ってくるんじゃなかった。死んだ島田や小塚が可哀相です」
あのころ、多くの若者が国家存亡のときと信じて命をかけて戦場へ行った。そういう人が天皇に対
する気持ちを言えと今いわれたら、だれだってぼくと同じことをいうでしょうね。上官の命令は朕の
命令であり、絶対だった。そして戦った。敗戦後、日本国民はだれも天皇の責任に言及しなかったよ
うだが、天皇は自ら責任をとるべきだった。
いまさらぼくが、こんなことを声を大きくして言ってみたところでどうなるか知らないけど、聞かれり
ゃ言いますよ。あの戦争で三〇〇万の生命が失われたんだ。オレたちを連中はバクチに売ったん
だ。戦争に負けたことは仕方がないとしても「一億玉砕」を真にうけて戦場へ行ったらこのざまだ。
歓呼の声でだまして若い生命を殺したんだ。人口が減り、失業がなくなれば政治家どもはまた出
世する。うるさい奴らがいなくなれば安閑として暮らせる。というんで戦争をやったんだとすれば、
そりゃバクチだ。負けたら負けたでしょうがねえが、バクチで負けたんだから、腹を切れ。いまから
でも遅くない。口惜しかったら腹を切ってみろ。
「朝日ジャーナル」(昭和五十年十月三日号)『ブラジルの小野田寛郎日本国無責任論を語る』
https://namaenaki.at.webry.info/201409/article_2.html