
https://news.yahoo.co.jp/articles/20c84e8a2890dc4ac93803733f18b38e1ff8d7f8
『天国と地獄』を彷彿させる『マイファミリー』
「マイファミリミー」(TBS日曜劇場)は、オンラインゲームの社長・鳴沢温人(なるさわ・はると、二宮和也)と、妻の未知留(みちる、多部未華子)が、娘・友果(大島美優)を誘拐した犯人の要求を受け入れて、完全に警察を排除して事件の解決に挑む、斬新な物語である。
夫の温人(二宮)が仕事に没頭するあまり、家庭を顧みなかったことから、妻の未知留(多部)の心は離れ、仮面夫婦の状態である。そこに、誘拐事件は起きた。
過去の傑作を意識か
脚本は黒岩勉。「モンテ・クリスト伯」(フジテレビ・2018年)や「アンサング・シンデレラ病院薬剤師の処方箋」(同・20年)、映画では「累―かさね―」(佐藤祐市監督・18年)などで知られる。
今回のドラマでも、サスペンスタッチの映像を重ねていく物語は魅せる。脚本家はつねに、あるジャンルを執筆するとき、過去の傑作を意識する。映画「天国と地獄」(黒沢明監督・1963年)や、ドラマ(NHK・2015年)と映画(瀬々敬久監督・16年)になった「64」は、当然意識しただろう。誘拐事件の捜査陣が、神奈川県警であるのは、「天国と地獄」と同じである。黒沢監督に対するオマージュ(敬意)を感じる。
誘拐された子どもが身代金と引き換えに戻ったとき、「天国と地獄」の主任刑事の仲代達也が部下たちに放った言葉は、耳に残る。
「さあ、犬になって、犯人を追うぞ」
警察が足と知恵を使って、犯人を追い詰める――。そんな誘拐の物語の「常識」を覆した、黒岩勉の脚本は見事だ。さらに、事件の解決に向かって、複数の伏線が張られている。それが、どのように誘拐に絡んでいくのか。ドラマの滑り出しは飽きさせない。
複雑に絡み合う人間関係
第2話(4月17日)に至って、誘拐犯は執拗に警察を排除するように要求を続ける。すでに、前話によって、温人(二宮)と未知留(多部)は、誘拐犯が仕掛けた身代金引き渡しに失敗していた。ふたりは、身代金5億円をスーツケースに入れて、犯人が次々に指示する場所に急ぐのだったが、カネがあまりにも重いために、未知留が倒れこんで到着時刻に間に合わなかった。
いったんは、誘拐した娘と身代金の交換をやめることを告げた犯人だったが、「警察を完全に排除する」ことを条件にして、交渉を再開したのだった。
温人と未知留の夫婦は、警察のすきをついて、ネットニュースに出演して、娘が誘拐されていることを公表したうえで、犯人との交渉のために警察に捜査から手を引いてもらう必要があることを訴えた。
このドラマの舞台回しとして、SNSやネットニュースなどの新興メディアが登場するところが、まさに現代の誘拐劇なのである。夫婦の行動は、既存のメディアのプライドを傷つけた。温人の自宅を取り囲むメディアから「また、ネットニュースで話すつもりですか!」と罵声に近い声が飛ぶ。
温人と未知留は、大学時代の友人である、ふたりの男と協力関係を結ぶことになる。ひとりは、元警視庁捜査一課の刑事で警備会社社員の東堂樹生(とうどう・いつき、濱田岳)と弁護士の三輪碧(みわ・あおい、賀来賢人)である。三輪は、未知留と半年つきあった過去がある。温人に奪われたのである。
誘拐事件の捜査の最前線に立つ、神奈川県警・捜査一課特殊犯罪対策係補佐の葛城圭史警部役に玉木宏、捜査一課長の吉乃栄太郎警視役にサンドウィッチマンの富澤たけし、管理官の日下部七彦警視役に迫田孝也。
葛城警部(玉木)は誘拐犯罪のプロだが、4年前の事件で失敗している。温人と未知留が頼った、元刑事の東堂(濱田)は葛城の部下だったことがある。
「どうして、また(誘拐事件に)東堂が出てくるんだ」という葛城(玉木)に、一課長の吉乃(富澤)は諭す。「もう4年前のことは忘れろ」と。葛城は、失敗した4年前の事件と、今回の誘拐の犯行が似ている、と考えているのである。
身代金を用意するために、自社株を担保にカネを借りた、日本を代表するネットサービス企業・NEXホールディングスCOOの阿久津晃(あくつ・あきら、松本幸四郎)も実は、温人の会社を乗っ取って外資に売ろうとしているのではないか。温人とは家族ぐるみの付き合いである。さらに、誘拐事件との関係は。
誘拐事件に、警察の面子とカネが絡み合う。ドラマは、場面転換のよさによって、複雑な伏線をうまく張っていっている。
繰り広げられる駆け引き
葛城警部(玉木)は、未知留の心が揺らいでいるところに付け入って、警察に協力させようと、彼女の元恋人でもある三輪(賀来)に頼み込む。
三輪は海岸近くの駐車場に未知留を呼び出して、説得し、近くに止まっていた警察のワンボックスカーに誘導して、葛城(玉木)に会わせて協力させる形を作った。