<社説>ヤジ排除で道警敗訴 表現の自由侵害に猛省を
03/26 05:00
街頭演説中の当時の安倍晋三首相にヤジを飛ばして道警の警察官に排除された市民2人が、憲法が保障する表現の自由を侵されたとして道に損害賠償を求めた訴訟の判決が札幌地裁で言い渡された。
危険が差し迫っており警察官職務執行法上、適切な職務の執行だったとする道警側の主張を退け、排除行為は同法に照らして違法だと断じた。
その上で、原告らが上げた「安倍辞めろ」といった声は公共的で政治的な表現行為であり、その排除は表現の自由の侵害だと結論付け、道に賠償を命じた。
表現の自由の中でも、とりわけ政治的な意思を自由に表明することの重要さを正面から指摘しており、高く評価できる。
その自由を侵されたら、民主主義の基盤は揺らぐ。
道警は判決を謙虚に受け止めて猛省し、一連の行為を検証して道民の信頼回復に努めるべきだ。
■危険性の根拠乏しい
訴状などによると、2019年7月の参院選で原告の男性と女性の2人は、札幌駅前などで自民党総裁として応援演説をしていた安倍氏に対し、それぞれ「安倍辞めろ」「増税反対」などと叫んだ。
2人は警察官らに取り囲まれ、強制的に移動させられた。
行き過ぎた公権力の行使で政治的な表現の自由が奪われたと原告側が訴えたのに対し、道警側は聴衆とトラブルが起きる危険が切迫していたとして適法な職務執行だったと反論していた。
道警が排除の法的根拠とした警察官職務執行法は、人に危険が迫っていたり、人が犯罪を行おうとしていると認められたりした場合にのみ、避難させることや制止ができると定めている。
だが判決は、証拠動画では警察官らが動きだしたのは原告が声を上げた直後だったことから、「危険な事態にあったとは言えない」として、排除は法律の要件を満たしておらず違法だとした。
女性は警察官に長時間不当に付きまとわれたとも訴えていた。それについて判決は「移動・行動の自由、名誉権、プライバシー権を侵害した」と明確に指弾した。
証拠から読み取れる事実を適切に認定した結果と言える。
そもそも道警が法的根拠を示したのは7カ月後だった。
聴衆からの政権批判の排除が先にあり、後付けの理屈によって正当化を図った疑いが浮かぶ。
組織的指示の有無について道警は検証し明らかにすべきだ。
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https://www.hokkaido-np.co.jp/article/661348