<政権批判、政治批判はこの十数年ずっと盛り上がっているのに、選挙では与党がほぼずっと勝ち続けている>
ここ数週間、世間が騒がしい。新型コロナウイルスの感染拡大に加えて、1月中旬に始まった通常国会のせいだ。
首相の国会答弁や与党幹事長の発言、現職国会議員が会食後にコロナ感染が発覚したこと、緊急事態宣言下でクラブに行ったこと、そもそもPCR検査が増えないのはなぜか、そういう話でSNSは大にぎわいだ。政権批判のハッシュタグが次々作られ、シェアされていく。
日本人はハッシュタグの作り方とか、SNS上にあふれる頓知の効いたワードとか、コピーライターのように上手だなぁと感心する。ツイッターなどの言葉を使うSNSは、日本人に非常に向いていると思う。
それはさておき、政権批判、政治批判、議員批判は何年も、あるいは十数年前からずっと盛り上がっている。もちろん政権の人気度により批判の多さもアップダウンはあるが、ある程度の割合の国民は、政権・政治不信をずっと持ち続けているように見える。マスコミも政権批判をし続ける。
だが不思議なことに、選挙では現与党がほぼずっと勝ち続けている。投票率も上がらない。もちろん、与党が獲得議席数を減らして「国民の皆さんの信頼を回復できるように頑張る」という首相談話は何度も聞くが、政権与党が変わらない限り基本的な政策は何も変わらない。
意外にもイランの政策は選挙でかなり変わる
私が以前から薄々感じていた日本政治への疑問を強くしたのは、アメリカ大統領選のせいかもしれない。映画監督のマイケル・ムーアが言うように、民主党も既に労働者に恩恵を与える党ではなくなってしまったのかもしれないが、それでも国民は大統領を選出することで、自分たち国民が自国の大まかな方向性を決めているという実感を持っているだろう。
それに比べて日本は――と私が発言すると、必ず「イランの政治体制のほうがひどいだろう」という声がたくさん上がる。確かにイランの政治体制では最高指導者は代わらないが、大統領選で穏健派あるいは保守派の大統領を選ぶことができ、それによって政策はずいぶん変わる。選挙によって政権が変わり政策も変わる。その振り幅は意外なことに日本より大きい。
先日、シフト制で働くアルバイトには休業手当が出ない、なぜならシフト制労働は労働基準法の休業手当の対象であると明記されていないからだ、というニュースが流れていた。緊急事態宣言の影響で飲食店やホテルのシフトに入れてもらえなくなった人たちの困窮は看過できないものがある。
では労働基準法を現在の労働スタイルに合わせて、アルバイトや非正規社員も守るよう法改正しようとする政党はなぜ議席を大きく増やせないのだろうか。同じような話は、リーマン・ショック後の派遣切り騒動のときにも大きなニュースになったはずである。
あれから12年たった今も、アルバイトや派遣社員の声を代表する党が力を持った、という話は一度もない。2020年の総務省調査で、非正規雇用者は2090万人もいて、18歳以上の国民全員が等しく選挙権を持っているにもかかわらず、である。
日本の政治はどこを向いているのか、とはコロナ禍でもよく聞かれる言葉だ。観光産業なのか、経団連なのか、それともIOC(国際オリンピック委員会)なのか。政治がひどい、と叫ぶことは憲法で保障された権利であるが、それでも選挙の票で意思を示さなければ、政治はあなたのほうを向かなくて当然である。
どんなにSNSやマスコミが大騒ぎしても、実際の選挙で多くの人が投票所に押し掛けて自身の意思を示している、かつてない高投票率である――という話にならない限り、まだまだ日本は幸せな国ということなのだろう。
石野シャハラン
SHAHRAN ISHINO
1980年イラン・テヘラン生まれ。2002年に留学のため来日。2015年日本国籍取得。異文化コミュニケーションアドバイザー。シャハランコンサルティング代表。@IshinoShahran
https://www.newsweekjapan.jp/tokyoeye/2021/02/post-56.php