
https://mainichi.jp/articles/20201213/ddl/k11/040/044000c
科捜研の女性たち/中 ポリグラフ検査 天川里美さん(30) 核心突く質問で真実へ /埼玉
フラットな気持ちで
かつて「うそ発見器」とも呼ばれたポリグラフ検査。現在はデジタル化され、県警科学捜査研究所では、職員3人が年間約100〜200件の検査を行う。主任研究員の天川(あまがわ)里美さん(30)=神奈川県出身=は、「隠された真実を最初に突き止められるのがこの仕事の魅力」と、日々容疑者らの心の内に迫っている。
推理小説を読むのが昔から好きだったという。「犯罪をしてしまう人もいれば、思いとどまる人もいるのはどうしてだろうか」。犯罪者の心の闇に関心を持ち、法政大大学院で犯罪心理学を学び、2014年4月に県警科捜研に採用された。
ポリグラフ検査は、心拍数や血管の伸縮、皮膚の電気信号など、被験者の「生理反応」の変化を見て、事件に関する認識の有無を調べる。例えば、「事件の凶器は何ですか」という質問に対して「包丁」「バット」などと複数の答えを用意し、全て「いいえ」と回答させる。真犯人であれば、実際に使われた凶器の場合に、他の項目とは異なる反応が表れるという仕組みだ。
記者も検査を体験した。まずは、指や足首にセンサーを取り付け、1〜5の数字が書かれた紙の中から、検査者が見えないように1枚を選ぶ。数字は1だった。「あなたが引いた数字は1ですか?」。順番に尋ねられ、質問時の反応はパソコンに記録されていく。
心を落ち着け、全て同じように「いいえ」と回答したが、天川さんは質問終了後、穏やかな表情で繰り返した。「あなたが引いた数字は1でしたか?」。「1」を聞いた際に、他の数字とは異なる反応があったという。
検査環境が整っていれば、ポリグラフの結果は事件の重要な証拠として扱われる。
殺人や放火などの重大事案や性犯罪、窃盗など担当する事件はさまざまだが、出番が回ってくる事件の多くは容疑者が否認しているケースだ。「容疑者と同じくらい事件に詳しくなる必要がある」と話す。各警察署や県警本部の捜査担当者から依頼を受けると、まずは捜査資料にじっくりと目を通し、事件の経緯を頭に入れる。
力量が問われるのは質問の作り方だ。いくらポリグラフが優れていても、質問内容が不十分では正確な結果が得られない。地図を使って事件当時の状況を尋ねることもあるため、実際に現場を訪れることも多いという。捜査員とも話し合いを重ね、真犯人しか知り得ない核心を突く質問を考える。
検査の所要時間は1回2〜3時間。検査対象者が真犯人と疑わしいような場合でも、絶対に先入観を抱かないようにしている。「検査に間違いがあれば、警察への信頼が大きく崩れる。いつもフラットな気持ちを心掛けています」
19年6月には長男を出産し、今年7月に職場に復帰。15年から大学にも通うなど、多忙な日々を過ごす。「事件解決の一助になるよう、もっと経験を積んでいきたい」と話す。