世界を混乱に陥れている新型コロナウイルス。各国の研究で後遺症の内容が明らかになりつつある。退院患者143人を追跡調査したイタリア・ジェメッリ大学病院などの研究では、回復から平均2か月の段階で、87.4%の患者に後遺症があった。最も多い症状は疲労(53.1%)で、呼吸困難(43.4%)、関節痛(27.3%)が続き、3つ以上の後遺症が残った回復者が過半数を超えた。
米ニューヨーク在住でアーティストのハンナ・デービスさんも、感染から5か月経った現在、複数の後遺症に悩まされている。
「発症前は健康でしたが、新型コロナから回復した後は、ほぼ毎日のように熱があって、頭痛や耳鳴り、筋肉痛などが消えません。神経内科、内分泌内科、循環器科、免疫科、かかりつけの総合診療科など多くの専門医に診てもらい、脳のリハビリを開始するためにMRIや脳波、神経心理学的な検査を受けましたが症状は改善していません」(ハンナさん)
なかでもつらいのは、神経系の症状だという。
「腕や手の感覚がなくなり、頭がぼおっとした感じが強くて、人と会話をするのも長い時間は難しい。立っているだけで心拍数が急上昇することがあり、階段を数段上っただけで1分間の脈拍が150に達するため、遠くまで歩くことができません。
嗅覚にも異常が出ており、実際は肉を焼いていないのに、肉が焦げたにおいがする『幻臭』があります。どの医師もなぜ後遺症が起こるのかわかっておらず、数か月間は、仕事や身体活動の量を最小限にするよう指示されています」(ハンナさん)
アメリカの新型コロナ対策チームを牽引する、米国立アレルギー・感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長は7月、医学情報サイトでこう指摘した。
「『筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)』と非常に似ているウイルス後遺症を持つ人が驚くほど多い」
「ME/CFS」は、原因不明の激しい全身倦怠感に襲われ、微熱や頭痛、筋肉痛などが長期にわたって続く難病だ。3月末に新型コロナに感染した米CNNの人気キャスターのクリス・クオモさんは、7月中旬の番組で体調が完全に回復していないことを明かし、「ME/CFS」と同様の症状に悩まされているとして次のように訴えた。
「脳の霧が消えない。自分ではコントロールできない」
実際、世界各国の多くの研究で、退院後に頭がもやもやする「ブレイン・フォグ(脳内の霧)」の存在が指摘されている。
嗅覚障害や味覚がなくなることも代表的な後遺症だ。例えば3月に感染したイギリスのチャールズ皇太子は、6月になっても嗅覚と味覚が回復しなかった。
視力や聴力の低下も報告される。中国の研究結果では、湖北省の病院で診断された陽性者の3割に結膜の充血、膿、涙道の分泌物増加など、結膜炎と一致する症状があった。感染から回復したイギリスのジョンソン首相は5月、記者会見で眼鏡を取り出して、「コロナに感染したため、視力が低下した」と語った。
また退院から8週間経過した121人を調査した英マンチェスター大学の研究では、8人が聴力の悪化、別の8人が耳鳴りの発生を認めた。ほかにも欧米の研究では、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、うつ病、不眠症、気分障害、幻覚、手足のしびれ、方向感覚の喪失が指摘された。腎不全、腎臓病、脳炎、血栓症、抜け毛を指摘する研究もある。
日本も例外ではない。ヒラハタクリニック院長の平畑光一さんは新型コロナの感染拡大後、後遺症と思われる症状の患者が増えたと語る。
「3月頃から明らかに普通とは思えないほど微熱が長時間続く患者が急増したため、初期から新型コロナの後遺症も疑っていました。実際に海外の症例とも一致しており、後遺症である確率は高いと考えています。
ちなみに微熱のほかに多い症状は、胸や喉の違和感、咳、食欲不振、悪寒、下半身の関節痛などです」(平畑さん)
厚労省は実態解明のため、8月からようやく調査を始め、来年3月まで約2000人を対象に研究を行う予定だ。https://news.nifty.com/article/domestic/society/12180-781877/