インスリンを自動的に放出する「人工膵臓」の開発に成功 安価で安全性に優れ、血糖日内変動も抑制
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名古屋大学や東京医科歯科大学などの研究グループは、インスリンの自律的に放出する機能をもった
「人工膵臓」の開発に成功した。機械的構造をもたず(エレクトロニクスフリー)、
タンパク質も利用しない(タンパク質フリー)仕組みになっている。
安価で安全性に優れた「人工膵臓」の実用化へ向け前進した。
研究は、名古屋大学環境医学研究所/大学院医学系研究科の菅波孝祥教授、田中都講師、
木村真一郎特任助教、東京医科歯科大学生体材料工学研究所の松元亮准教授、
および奈良県立医科大学の纉c博仁助教を中心とする研究グループによるもの。
安全で使いやすい「人工膵臓」が求められている
糖尿病治療では現在、「どのようにして血糖値を下げるか」から
「どのようにして糖尿病合併症を予防するか」ということに主眼がシフトし、
低血糖を回避しながら血糖変動を改善する治療法が求められている。
インスリン頻回注射による治療法では、インスリン製剤の用法・用量や、
食事や運動などとのバランスがうまくとれていないときに低血糖が起こることがある。
重い低血糖は意識障害などの重篤な症状につながり、患者のQOL(生活の質)を大きく損なうおそれがある。
こうした課題を解決するために、インスリンポンプの普及も進んでいるが、患者に及ぼす負担や、
機械特有の補正・メンテナンスの必要性、医療費などの課題もある。
そこで研究グループは、エレクトロニクス(機械や電気)駆動を必要とせず、
血糖依存的に自律的にインスリンを放出する、新たな人工膵臓デバイスの開発に着手した。
血糖値の変化を検知して、自律的にインスリンを放出
過去の研究では、グルコースオキシダーゼやレクチンなどのタンパク質を基材とする試みが
なされてきたが、生体由来の材料を使うのは限界があり、
タンパク質変性にともなう不安定性や毒性などの課題があるため、実用化には至っていなかった。
研究グループは、この課題を解決するために、タンパク質を一切使用せず、
グルコースに応答する性質を持つ「フェニルボロン酸」を主要な成分とする
高分子ゲル(グルコース応答性ゲル)を作製し、人工膵臓デバイスの開発を進めてきた。
フェニルボロン酸は、血糖測定器のセンサーとして臨床応用されている。
グルコースに反応して、その物理化学的性質を大きく変化させる性質があり、
グルコース濃度が低い場合、フェニルボロン酸は脱水反応を生じて、
ゲルの表面に「スキン層」と呼ばれる薄い脱水収縮層が形成され、インスリンの放出がオフになる。
逆にグルコース濃度が高い場合は、フェニルボロン酸は水和して「スキン層」は消失し、
インスリンの放出がオンになる。
研究グループは、これを血糖値に応じたインスリン放出の制御機構として利用し、
人工膵臓としての機能を付加することを考えた。