長期ひきこもりの息子は53歳。カーテンを閉め切った自室で母親が準備した食事をとる。もう30年ぐらい両親と食卓を囲んだことはない。
近所の目がある日中の外出はしない。買い物は夜間に遠方のコンビニまで車ででかけていく。
男性は、大手メーカーで部長を務め、高度成長を担った「猛烈社員」だった。「我が家は順風満帆」と思っていた環境が変化したのは、
息子に対人恐怖の症状が出てからだ。高校生の頃だった。親子で大学病院に通い、1日1万円かかる精神療法の施設に息子を入れたこともある。
30代半ばまでの数年間だったが、息子は様々なアルバイトへの挑戦と退職を繰り返した。当時の収入は合計300万円ほどになる。
「人の一生の稼ぎが300万円。自立への葛藤のモニュメントとして誇ってほしいと思う気持ちと、現実の悔しさ悲しさと……。両方の思いがあります」
大手メーカーを退職後は70代まで、ひきこもりの家族会の活動に打ち込んだ。家族会でともに活動した同世代の親の多くがすでに他界。
「8050」世帯となった今、おなかに鉛を抱えたような重苦しい懸念は「親亡き後」だ。
息子が1人で生きねばならない期間を約35年間と計算、「餓死しない」蓄えを残そうと、ボーナスの半分は貯金してきた。
国民年金の保険料はずっと親が負担している。母は自炊の料理本を部屋に差し入れ、父はアマゾンでの買い物の仕方を息子に教えた。
最後は息子より2歳年上で独り身の兄に託すほかないと思っているが、笑顔の消えた兄の心中を思うと、親として切ない。
https://www.asahi.com/articles/ASM3W55XPM3WULZU00S.html?iref=comtop_8_02
国や自治体に望むのは、長期ひきこもりの子の登録制度など、善意の公的介入を制度化することだ。髪に白いものが交じってきた50代の息子。
「なんとかこういう子たちが生きられる世の中にしてほしい」