通常、網膜は赤ん坊が胎内にいる段階で発達するので、発達の様子を観察・研究するのが難しいもの。そこで、ジョンズ・ホプキンズ大学の研究者たちは、これまで「無理だ」と考えられていた、
「ラボで網膜を育てる」ということに挑戦し、色覚がどのように発達していくのかを明らかにしました。この研究結果は、色覚障害や緑内障などの治療に大きく役立つものと考えられています。
Thyroid hormone signaling specifies cone subtypes in human retinal organoids | Science
http://science.sciencemag.org/content/362/6411/eaau6348
Secrets Of Color Vision Emerge From Lab-Grown Human Retinas : Shots - Health News : NPR
https://www.npr.org/sections/health-shots/2018/10/11/656560767/human-retinas-grown-in-a-dish-reveal-origin-of-color-vision
研究チームの1人であるKiara Eldred氏によると、試験管の中で三次元的な臓器「網膜オルガノイド」を作るのは難しく、完成までに研究者は数年の月日をかけたといいます。未熟な網膜細胞をオルガノイドにするには1年かかり、
細胞が網膜アルガノイドに成長してから数週間すると「ほんの少し自立」しますが、最初の一週間は毎日ケアを行う必要があるそうです。そして「運が良ければ、細胞を胎内の赤ん坊が持つような三次元構造に成長させることができる」とのこと。
もともと、Eldred氏と上司であるBob Johnston氏はハエの視覚について研究していました。しかし、動物によって「何色を知覚するか」は異なり、例えばマウスは赤を知覚することができません。
つまり、人間の色覚がどのように発達するかを知るためには、人間の網膜をラボで作り出す必要があります。そこで、2人は「人間の網膜をラボで育てる」という研究をスタートしました。
人間の胎児の体の中で、まず発達するのは青色を知覚する細胞で、その次に赤色と緑色を知覚する細胞が発達します。動物を対象とした研究から、色を知覚する錐状体の発達には甲状腺ホルモンの働きが関係していることはわかっていました。
そこで、研究者は試験管の中で発達する細胞に甲状腺ホルモンを与えてみたところ、甲状腺ホルモンが与えられたオルガノイドは赤色・緑色を知覚する錐状体がより多く作られたそうです。
その後、甲状腺ホルモンが色覚を生み出すトリガーになっていることを、研究者は数年かけて確認しました。しかし、なぜ錐状体が緑と赤の知覚だけをより発達させるようになるのかは判明していないとのこと。
「どのように色覚が発達していくのか」という理解は、色覚障害や黄斑変性症の治療に役立つと考えられています。研究者はこの研究の目標について「1つは色覚障害の人々に色覚を取り戻すこと」と語っており、
今回の研究の理解が既存の色覚障害治療の研究を加速させるとみています。もう1つの目標は、網膜オステロイドを使って、緑内障および黄斑変性といった失明を引き起こす病気を理解することだとのこと。
研究を進めるため、Johnston氏はラボでさらなる網膜オステロイドを作りだすことを望んでいます。研究に参加していない国立眼病研究所のSteven Becker氏によると、Johnston氏らが研究を開始した当初、
多くの研究者たちはラボで網膜を作り出せるという考えに懐疑的でしたが、この研究結果によって新しい治療法が生まれると考えているそうです。
なお、さらなる網膜オステロイドの開発を行うため、国立眼病研究所は賞金100万ドルの科学コンペの後援を行っています。
NIH solicits next-generation retina organoids in prize competition | National Eye Institute
https://nei.nih.gov/content/nih-solicits-next-generation-retina-organoids-prize-competition
https://gigazine.net/news/20181015-human-retinas-origin-color-vision/