あまりにも簡単に援助が得られませんか。お金がかかりすぎませんか。社会が整えたもので私たちは過度に甘やかされていませんか。
スウェーデンの中学教科書「あなた自身の社会」(邦題)。社会保障の章にある問いかけだ。福祉国家のこの国は経済活力をそがぬよう社会保障給付の一部を制限する厳しい顔も持つ。
取材班は感じた。スウェーデンの子どもたちへのこの問題提起は、社会保障費が膨張する日本でこそ、議論すべきなのでは?
戦後まもない1950年。社会保障制度の出発点となった文書が吉田茂首相に渡された。社会保障制度審議会がまとめた勧告だ。
自ら働き生活を支え、健康を維持する「自助」を基本に、高齢や病気などのリスクは「共助」で支える。
それでも対応できない貧困などは「公助」がカバーする。社会保障の魂は、まず自助ありきの精神だった。
67年後の今、現場ではこの原点が移ろいでいる。
大病院への安易な受診を抑えるため、紹介状なしで受診すると定額負担を求める制度。
2016年に義務化したが半年後の調査では紹介状なしの患者数は微減にとどまった。14%の病院が患者の同意が得られず負担金を徴収できなかった。
福祉元年・1973年の老人医療費無料化を機に、社会保障は拡充と膨張を続けた。
大盤振る舞いを支えた高度成長と人口増加はとうに終わりを告げたのに、私たちの意識は、公助への過度な依存から抜け切れていないのではないか。
人口の3分の1が高齢者になる2030年。支えが要る人が激増する危機的な未来に向け、甘えを断つ私たちの覚悟こそが綻んだ安心網を紡ぎ直す糸となる。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO24288820V01C17A2MM8000/