・呼称以外はG's
・地の文多め
・黒澤家の闇ss
自分が本当の自分であること、それは誰にも証明できないことなのかもしれない。
もしかして本当の私は地球じゃないところで生まれた鴨、というやつだ。
生まれた時のことは誰も覚えていない。
本当は全く違う世界で生きるはずだったのに、なにかの間違いでこの世界に連れてこられたのかもしれない。
人は自分の出どころが一生分からないまま死にゆくのだ。
私がそんなことを考え始めたのと、自身を堕天使ヨハネと名乗り始めたのはだいたい同じ頃だっただろうか。
とにかく、私、堕天使ヨハネは、自分という存在を疑いながら生きてきたのである。
善子「ヤバイヤバイ遅刻しちゃう!先週遅刻してダイヤに大目玉食らったばっかりなのに!!」ハァッ ハァッ
7月中旬、早朝、快晴。
善子「どうして今日に限ってバスが遅延してるのよーーー!!!」
バスを全速力で駆け下り、学校へと続く坂道を駆け登る。
走っているうちに見覚えのあるくせっ毛頭が見えてくる。
善子「はっはっはっはぁっ!曜が歩いてるってことは…セーーーフっ!」
曜「おはようヨハネちゃん」
善子「おはよ、う」ゼエゼエ
曜「安心してるみたいだけど、残念、ただいま時刻は8:10、部活は遅刻確定でーす」ヒラヒラ
善子「そ、そんなあ…」ガクッ
曜「今日はバスが遅かったみたいですなあ」
ですなあ、じゃないわよ…はぁ…朝からついてない。
ていうか、なんでこの人はノコノコ歩いてるのよ。
あなただって朝練があるでしょうが。
曜「ん〜?今日は朝練ないと思うよ。1本遅れてもHRには余裕で間に合うから歩いてた」
…この人はときどき心を見透かしたみたいに会話を広げることがある。
善子「そう…リトルデーモンとして良い心がけね」
曜「お、これはトールデーモンに昇格ですか?」
善子「スタバじゃないんだから」
そういえば、この人が歩いて登校する姿ははじめて見る気がする。
いつ見ても駆けずり回っている、馬鹿な柴犬みたいだと誰かが言っていたのを思い出す。
しかし、どうやら、馬鹿なわんこも大人しく散歩する日があるらしい
善子「ところで、どうして今日休みなの?誰もそんなこと言ってなかったと思うけど」
曜「……昨日の夜、果南ちゃんから連絡があったんだよ。
ヨハネちゃんに伝えといてって言われたけど忘れてた!」
オーバーなジェスチャーをしながら元気よく答える。
一瞬、目が泳いで見えたのは気のせいだろうか
善子「忘れてた!じゃないわよ!!私の体力返しなさい!」
曜「えぇ〜体力回復アイテムあったかな〜」ゴソゴソ
全くこの人は…おちゃらけとけば何しても許されるすら思っている気がする。
朝練はなくてもミーティングはあるかもしれないから一応部室に向かう。
時刻はまだ8:15、HRまで20分以上ある。
曜「おはよー」ガラララ
善子「おはよう」
花丸「おはよう。二人とも今日は遅かったね」
千歌「千歌も今来たところだよ〜」
HR開始20分前に到着して遅いと言われるのだから、常日頃なかなかに頑張ってる自分たちを褒めたくなる。
善子「ルビィとダイヤは?」
果南「ダイヤたちは今日こないよ」
鞠莉「明日も来ないでしょうね」
梨子「どうしてですか?」
果南「うーん、ちょっとね」
果南が何かを含んだように笑う。
この人は白黒つけない性格ではあるが、物言いははっきりしている。
言葉を濁らすのは珍しい。
黒澤家でなにかあったのだろうか。
千歌「そうそう、言うの忘れてたけど、明日の放課後はお休みね」
曜「まあ、そうだよね」
…そうだよねって、明日ってなんかあったっけ?
果南「提案なんだけど、ダイヤもルビィもいないし、今日も休みにしない?」
鞠莉「私もそれがいいと思うわ」
千歌「じゃあ、そうしようか。千歌もそうしたいと思ってたんだ」
千歌がスクールバックの縫い目をなぞりながら言う。
梨子「急に休みができちゃうと何したらいいか分からなくなっちゃうな…」
梨子が社畜じみたことを言ったのと同時にHR開始十分前のチャイムが鳴った。
千歌「じゃあ、そろそろ解散しようか」
善子「え、もう?」
千歌はいつも、チャイムが鳴っても「まだおしゃべりしたい」と駄々をこねている。
千歌がそう言い出すと、みんなもその場が名残惜しいとギリギリまで部室に残るのだ。
鞠莉「そうね、教室へ戻りましょう。ほら散った散った」
花丸「ヨハネちゃん、一緒に帰るずら〜」
その場にいる全員が、この場を離れたがっている空気を醸し出していた。
いや、この表現は些か正確じゃない。
私ともう1人を除いた全員が、この場から私とその1人を遠ざけようとしていた。
善子(…何かを隠そうとしている?)
『授業中』
先生「じゃあーーー百人一首のページを開いてください。えー53ページ」
先生「では77番をーー国木田さん、読んでください」
花丸「…」ボーッ
先生「国木田さん?……国木田さん!!」
花丸「!? はっはい!」
先生「77番を読んでください」
花丸「えっえっと」アタフタ
花丸「あれっ教科書が…」
先生「…ないなら隣の人に見せてもらいなさい」
「あはははは」「花丸ちゃんが教科書忘れるなんてめずらしー」
花丸「いえ、なくても大丈夫です…」
花丸「…瀬を早み 岩にせかるる 滝川の われても末に あはむとぞ思ふ」
「おぉ〜!!!」「すっごーい!」
パチパチパチパチ
善子「…」
『昼休憩』
善子「花丸、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
花丸「どうしたの?」
善子「…ルビィたちのことだけど、どうして学校休んでるの?」
花丸「…!」
善子「あなた達の様子がおかしいのと関係があるのよね?」
花丸「…それは」
花丸「…」
善子「い、嫌だったら…別に言わなくていいわよ」
善子「あんたお弁当の準備してないじゃない」
善子「5時限は移動教室よ、はやく食べましょう」
花丸「…」
花丸の顔色は悪いわけじゃない、しかし、ただ一点を見つめて動かない。
善子「ねえ、はなまr「…なの」
花丸「…」
善子「へ…?」
花丸「命日なの」
花丸「ルビィちゃんのお姉ちゃんの、命日なの…明日は」
善子「…ルビィのお姉ちゃん?…それって」
花丸「ううん、ルビィちゃんにはもう一人お姉ちゃんがいたの」
花丸「ルビィちゃんのお姉ちゃんで、ダイヤちゃんの妹…」
花丸「…マルの大好きな友だち」
はじめて出会ったのは、確か、そう4歳の時。
マルが内浦のじっちゃんのお寺に引っ越してきてから初めての冬。
まるの家はお寺だから、毎年お餅つき大会をやるんだ。
内浦の人がいっぱい集まって、ちょっとしたお祭りみたいになるんだよ。
マルは引っ越してきてからずっと、家の中で本を読んだり、ばっちゃんやじっちゃんと遊んだりしてたから
そのお餅つき大会で初めていろんな人に出会ったんだ。
その子と初めて会ったのも、その日だった。
「じゃあルビィがおにね!」
ルビィ「なんびょうかぞえたらいい?」
ちか「30びょー!」
ルビィ「わかったー!いーち、にー」
「ダイヤ!にげるよ!」「まってくださいー!」「ちかと同じところにかくれないでよぉ」「だってかくれる所ないじゃん!」「ほかのへや行けばいいでしょー!」
その時、ルビィちゃんたちはみんなでお寺の中でかくれんぼをしてたんだね。
大人達がお餅つきしてる間は暇だし、外は寒いから。
マルもね、やっぱりお寺の中でひとりで本を読んでいたんだ。
はなまる「…」ペラッ
「ここならぜったいみつからないでしょ!」ガラララ ピシッ
はなまる「!!?」ビクッ
「…あなただれ?ここでなにしてるの?」
はなまる「そ、それはこっちのセリフずら…ここはマルのへやずら…あ、あなただれ?」
「わたし?わたしはサファイア!黒さわサファイア!5さい!」
はなまる「いや、なまえとかじゃなくて」
サファイア「あなたは?」
はなまる「…くにきだはなまる、4さいです」
サファイア「4さい!じゃあわたしのほうがおねえちゃんね。」
「もーいいかーい!??」
サファイア「あっやばい、まーだだよー!」
サファイア「かくれなきゃ、ほらはなまるも!」
はなまる「えっ?えっ?」
サファイア「かくれんぼしらないの?鬼にみつかったらまけるのよ!」
サファイア「ほらはやく、おしいれのなかに入るわよ」グイグイ
はなまる「ま、マルも?」
サファイア「しずかに!みつかっちゃうでしょ!」ヒソヒソ
サファイア「もーいいよー!」
これが、最初。
ふふ、今でも昨日のことみたいに覚えてるよ。
だってはじめてできた友達だもん、忘れるわけないよ。
そのあと?そのあとはすぐにルビィちゃんにみつかっちゃってね、
ガララララッ
ルビィ「さっちゃんみっけ!」
サファイア「うぇっどうしてわかったの?」
ルビィ「だってさっちゃん、いっつもここにかくれるから…ピッ!? 」
ルビィ「そのこ、だあれ?」
サファイア「はなまるよ!わたしのともだち」
はなまる「…!」(ともだち…)
ルビィ「はなまるちゃんっていうんだね。ルビィ、黒さわルビィ!5さい!」
ルビィ「じゃあおねいちゃんたちさがしにいこ!」ギュッ
はなまる「お、おらも?」
サファイア「あたりまえでしょ!ほらさっさといくわよ!」
うれしかったなあ。
子どもだから当たり前と言われたら当たり前だけど、出会ってすぐに友だちになって、一緒に遊んで
マルにとってそんなこと生まれて初めてだったから。
あ、うん、そうだよ、ルビィちゃんとサファイアちゃんは双子なんだ。
サファイアちゃんの方がお姉ちゃん。
二卵性だったからあんまり似てなかったけどね。
さっちゃん…サファイアちゃんはどっちかていうとダイヤちゃんに似てたかな。
うん、長いし、言いにくいからみんなさっちゃんって呼んでたずら。
かしこくて、負けず嫌いの子で、あーでも鈍臭かったなあ。
何も無い所でコケたり、溝にハマって抜けなくなったり、怪我と事件に絶えない子でね。
いつも体中傷だらけだったずら。
…だからかな、その日もきっとそうだったんだ。
その日…マルたちが小学2年生になった年の7月。
夜の7時くらいにオラの家に一本の電話がかかってきた。
ジリリリリン! ジリリリリン! ジリリリリン!
花丸婆「はい、もしもし国木田です…あれ黒澤さん…えぇ!!?」
花丸婆「今日はうちには来てないです…えぇ、花丸に聞いてみます」
はなまる「?」
花丸婆「花丸、サファイアちゃんが家に帰っていないそうだよ…
花丸婆「今日サファイアちゃんと会ったかい?サファイアちゃんがどこにいたとか聞いてないかい?」
はなまる「えっ…ぅうん、今日は会ってないよ。さっちゃんがどこにいたのかも知らない…」
花丸婆「本当だね?…もしもし、すみません花丸もなにも知らないそうで…」
花丸婆「警察には?…そうですか、私達も探します。えぇ…」
ばっちゃんはじっちゃんになにか伝えて、二人で飛び出すように家を出ていった。
マルも行きたかった、嫌な予感がしていた。
でも、これ以上迷子を増やすわけにはいかないと、家で留守番しているように言いつけられた。
20時になっても21時になっても、じっちゃん達は帰ってこなかった。
時計の針がてっぺんを回った頃にやっと二人が帰ってきた。
「見つかったの」と聞いてもじっちゃんは首を横に振るだけだった。
次の日も早朝から、サファイアちゃんの捜索が行われた。
警察も大人も子供も町中の人があらゆる場所を探し回っていた。
捜索を開始して1時間もしない内に海にサンダルが浮かんでるのが見つかった。
千歌ちゃんの家の前の海だった。
すぐにサファイアちゃんのお母さんに連絡がいった。
サンダルはサファイアちゃんのだった。
約1週間、狭い海を数隻の船が捜索を続けた。
サファイアちゃんは見つからないまま捜索が打ち切られた。
数週間後、サファイアちゃんの葬儀がマルのじっちゃんの寺で執り行われた。
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花丸「明日がサファイアちゃんが行方不明になった日…命日なの」
善子「そう、だったのね。だから…」
花丸「…ごめんね、話すぎちゃったね。こんな話しても善子ちゃんは困るだけなのに」
善子「別に、そんなこと」
キーン コーン カーン コーン
花丸「チャイム鳴っちゃったね、お昼ご飯食べ損ねちゃった」
善子「…」
翌朝、部室
善子「…」ガラッ
梨子「よっちゃん、来たんだ」
善子「そっちこそ」
梨子「うん。早起きするの習慣になっちゃったから」
善子「前から思ってたけど、あなた社畜の才能あるわよ」
梨子「えぇ!?」
梨子は千歌たちが部活を休みにした理由をきっと知らないのだろう
野暮なことを聞くタイプでもないし、あの二人が梨子に自ら話すとは思えない。
善子「…二人だけだとなんにもやることないわね」
梨子「そうだn「Good morning〜!」ガラッ
梨子「!?」
鞠莉「部活は休みなのに、朝早くから登校なんて二人とも勤勉ねえ。Good girl!」
善子「それ言うならマリーもじゃない…」
鞠莉「後輩が睡眠返上で登校してるのに、先輩は家でぬくぬく眠ってるなんてカッコ悪いじゃない!」
梨子「私たちがいるって知っていたの…?」
鞠莉「ええ、マリーはなんでもお見通しなんだから」
善子「なんでもねぇ…」
鞠莉「来ないと思ってたでしょ?」
善子「!」
鞠莉「マリーは辛気臭いのは苦手なの。さあ、ちょうどギルキスが揃ってるし、新曲について話し合いましょ!」
その後の話し合いはそれは大いに盛り上がった。
マリーがギターを全面に取り入れたいと言い出し、
私は目新しさが必要だと言い、
梨子がそれならロックらしくない楽器も取り入れたいと、か細い声で意見する。
ああでもない、こうでもないと言い合う内にHR開始前のチャイムが鳴り、
話はまとまらないまま解散ということになった。
ー教室ー
善子「おはよー」
「おはよ〜」
花丸「おはよう善子ちゃん」
善子「あ、おはよう」
善子(来たんだ…)
花丸はいつもと同じようにクラスメイトと挨拶を交わしている。
違うのは登校時間だけで、昨日の放心状態が嘘みたいだ
善子(ルビィはやっぱり来てないのね…)
ー黒澤家ー
ルビィ「へくちっ」
ダイヤ「あら…夏風邪ですか?」
ルビィ「ぅう、きっと誰かがルビィのこと噂してるんだ」
ダイヤ「はぁ…しっかりなさい。ほら早くしないと置いていかれるわよ」
ルビィ「わかってるよぉ」
「車出したぞ〜早く来なさい」
ダイルビ「はーい!」
車内
ルビィ「お水かけるのはルビィの係だからね」
ダイヤ「掃除に精を出すのはいいけど、お水をかけすぎないでよ」
ルビィ「墓石が痛むからーーでしょ。分かってるよもう耳タコだもん」
ダイヤ「本当に分かってるのかしら…」
ダイパパ「まあいいじゃないか。サファイアもお水いっぱい貰ってきっと喜ぶよ」
ルビィ「ほら!」
ダイママ「ルビィ?」
- [ ]
ルビィ「ごめんなさい」
ダイヤ(変わり身の速さだけは一流ね)
ダイパパ「もう着くぞ、降りる準備をしなさい」
ルビィ「さっちゃん、今年もルビィがやってきたよ」
ルビィ「お墓のお掃除してあげるからね」
`¶cリ˘ヮ˚)| いつもお前を見ているぞクックックッ
『…似てないね』
「ルビィちゃん達って姉妹なのに全然似てないね」
ルビィ「そうかな?」
千歌「そうだよ」
千歌、8歳。ルビィ、7歳。
7月中旬、午前、快晴。
ルビィ「でもルビィとおねいちゃんは目の色がいっしょだし。おねいちゃんとさっちゃんは髪の色と目の形が似てるよ」
千歌「さっちゃんとルビィちゃんは?」
ルビィ「さっちゃんとルビィは…」
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「ビィ…ルビィ!」
ダイヤ「ルビィ、気分悪いの?」
ルビィ「え?」
ダイヤ「さっきからぼーっとして…車に戻る?」
ルビィ「ううん、大丈夫だよ。考え事してただけだから」
私はこの日になると、いろんなことを思い出します。
そして最後には、いつも同じことを思い出すのです。
さっちゃんと最期に交わした言葉を、最期の姿を
昨日あったことのように鮮明に思い出すのです。
サファイア「ルビィは昨日私より1個多く食べたでしょ!」
ルビィ「さっちゃんだってこの前ルビィより1個多かったもん!」
当時、7歳の私たちの目の前には1つの飴玉が転がっていました。
サファイア「私の方がお姉ちゃんなのよ!姉の言うことを聞きなさいよ!!」
ルビィ「そうやって、そうやって、こういうときばっかりお姉ちゃんにならないでよ!」
ルビィ「それにおねいちゃんはそんなこと言わないもん!」
サファイア「ダイヤはルビィに甘すぎるのよ!」
ルビィ「そんなことない…ない、もん。うん」
サファイア「そこは言い切りなさいよ」
ルビィ「とにかく、あめはルビィが食べるの!」
サファイア「私!」
ルビィ「ルビィが食べるんだもん!ルビィがっヒック…ルビィがぁぁぁグスッ」
ルビィ「うわあああああんおねいちゃぁぁぁぁ」
サファイア「そうやって、すぐにダイヤ呼ぶのやめてよ!」
ルビィ「うるさいぃ…もうさっちゃんなんかお姉ちゃんじゃな"い"も"ん"!」
サファイア「はぁ?」
ルビィ「だって見た目も性格も全然似てないもん、さっちゃんは別の家の子だから似てないんだよ、」
ルビィ「別の家の子だからすぐにケンカになるんだよ!!!」
サファイア「そんなわけないでしょ!!怒るわよ!!!」
ルビィ「もう怒ってるもん!出てって!!!!」
サファイア「言われなくてもそうするわよ!!!あんたなんか知らない、ずっとそうしときなさい!!!!」
ルビィ「うわぁぁぁぁん…さっちゃんのばかぁぁぁぁ!!!」
昔のルビィはわがままでした。
困ったことがあったら、すぐにおねいちゃんを呼んで、泣いて、みんなを困らせていました。
そんなルビィを人1倍強く叱ってくれていたのがさっちゃんでした。
さっちゃんがルビィを叱ると、必ずケンカになりました。
ケンカといっても、そこまで酷いものではなく
『軽い言い合いをして、いつの間にか仲直り』
というのがいつものパターンでした。
しかし、この日は違いました。
ルビィがさっちゃんに酷いことを言って傷つけました。
仲直りしないまま、さっちゃんを追い出しました。
馬鹿なルビィは、さっちゃんが帰って来たら仲直りすればいいと思っていました。
しかし、さっちゃんは帰って来ませんでした。
門限をすぎても、蛍の光が流れても、時計の針がてっぺんを指しても、鶏が鳴いても、
100人の警察官が町をうろついても、見たことない船が内浦にやってきても、警察官と船がいなくなっても、
お盆がきても、クリスマスが来ても、小学3年生になっても、何ヶ月たっても、何年たっても
さっちゃんは帰って来ませんでした。
ーーーー
ルビィ「どうしてあんな酷いこと言っちゃったのかな…」
ダイヤ「…なにか言いましたか?」
ルビィ「ううん、ただのひとりごと」
ルビィ(ごめんね、酷いこと言ってごめんね)
ルビィ(…さっちゃん、)
ルビィ(どうか私を許さないで)
ー浦の星女学院ー
1時限目が終わり、ひとりでトイレに向かう途中のことだった。
窓の外から誰かの声が聞こえてきた。
「だからさ、もう泣きやみなよ」
「分かってる…わかってるよぉ」グスン
「ほら、ティッシュ」
善子(この声って…)
ー保健室ー
ガラッ
善子「3人ともどうしたの?」
果南「あ、ヨハネちゃん…曜がちょっとね。ヨハネちゃんはどうしたの?」
善子「トイレに行く途中、3人の声が聞こえてたから、」
果南「あー、窓開けてたから、2階からも聞こえたんだね」
ガラッ
そう言うと果南は保健室の窓を全部閉めた。
曜「ヨハネちゃっグスッどうしたの…」
目と顔を真っ赤にした曜が、嗚咽を漏らしながら聞く。
善子「あなたの泣き声が聞こえたから来たのよ。どうしたの?」
曜「よ、ようはッ、大丈夫だから…グズッ」
千歌「大丈夫なら泣きやみなよ…もう、この日になったら毎年泣くのやめようよ〜」
曜「分かってる、分かってるよぉ…」
曜「分かってるんだけど…」
曜の目から大粒の涙がこぼれる。
千歌「泣いたら泣くだけ悲しくなっちゃうじゃん…」
千歌「千歌だって、泣いて気が晴れるなら泣きた、い、グスッ」
千歌「あ、ぁ、うわぁぁぁぁぁん」ポロポロ
曜「ざっち"ゃん"っぁぁぁぁぁん」ギュッ
善子「ちょ、曜?」
曜が私の服を両手で掴みながら泣く。
善子「…」ギュッ
私は曜を抱きしめた。
こうするのが正解だとなんとなく思ったからだ。
曜はさらに大きな声をあげて泣いた。
授業開始のチャイムが鳴っても二人は泣き続けた。
ーーーーー
果南「…ごめんねヨハネちゃん」
善子「別に大丈夫よ。保健室の先生が教科担に全部伝えてくれてるし」
善子「むしろ授業受けずにすんで、ラッキーよ」
ラッキー、自分で言っておきながら、似合わない言葉だと思った。
曜と千歌は穏やかな寝息をたてて寝ている
善子「泣くだけ泣いて、疲れたら寝るって…小学生か」
果南「ははは…」
善子「毎年こうなの?…その、サファイアさんの命日は」
果南「!…知ってたんだ」
果南「そうだよ、毎年そう」
善子「…」
果南「でも、今年はいつもより激しかったな」
善子「それは…」
果南「…似てるんだよ」
果南「ヨハネちゃんと、サファイアが」
善子「似てる…?」
果南「…すっごく似てるんだよ、最初一目見た時からずっと思ってた」
果南「サファイアが成長したら、こんなかんじだったのかなって」
果南「だから、曜も千歌も思い出しちゃったんだろうね」
果南「ヨハネちゃんを見て」
善子「…なによ、それ」
果南「ごめんね、ヨハネちゃん…勝手にこんなこと思って」
善子「…まあ?堕天使ヨハネにとってはそんなの何てことないことだし?」
善子「ぜんっぜん気にしてないけどね!」
善子「ギガントマキアを乗り越えてきたヨハネにとっては、人間風情がなんと思っていようが関係ないわ」
果南「そっか、ありがとう」クスッ
曜「うーん…」ゴソッ
曜「ヨハネちゃ…そんな急がなくてもお弁当は逃げないよ」ムニャ
善子「あんたはなに失礼な夢見てるのよ…ん?」
よく見たら曜の両腕に1冊のノートが抱かれている。
善子「果南、曜が抱きしめてるのなに?」
果南「あぁ、あれは曜とサファイアの約束ノートだよ」
ーーーーー
曜、小学2年生。海難事故の約一年前
曜「なんでみんな遊んでくれないんだろ…」グスン
サファイア「なに泣いてるの?」
曜「私は野球とかサッカーがしたいのに、みんなおままごとばっかやりたがるんだよ」グズッ
サファイア「しょうがないわよ、うちの学校51人しかいないのよ」
サファイア「しかも2年生は4人よ4人」
サファイア「4人だけじゃ手打ち野球もできないじゃない」
曜「でも…他の学年の子も入れたらできるもん」
サファイア「野球が苦手な子もいるんだから、がまんするしかないわ」
曜「なんでようだけ、がまんしなきゃいけないの?なんでっ、よう、いつも、グスッ」
サファイア「あーーーーもうめんどくさいわね、泣かないの!」
曜「うわぁぁぁぁぁぁん」ポロポロ
サファイア「わかった!わかったから!!ちょっと待ってなさい!」
曜「ぁ…?」
サファイア「ほら!」スッ
曜「なにこれ、ノート?」
サファイア「これにやりたいこと全部書いてって、毎日ひとつずつクリアしていくの」
サファイア「そしたら、曜も毎日やりたいことができるでしょ?」
曜「なるほど、かしこい!!」
サファイア「これは私とあなたの約束よ。そうね、約束ノートと名付けましょ」
曜「かっこいい!!」
サファイア「さっそく書いていきましょ。野球でしょサッカーでしょ、あとは?」カキカキ
曜「えっとねー、ラグビーでしょ、テニスでしょ、あとセミ取り、スイカ割り、あっ水族館にも行きたい!」
曜「そうだ、さっちゃんの願いごとも書こうよ。さっちゃんは何がしたい?」
サファイア「私?そうね…遊園地に行くとか?」
曜「遊園地いいね!あとはあとは?」
サファイア「あとはねーーーーー」
ーーーー
果南「曜は今でも毎日持ち歩いてるんだよ。もう15冊目になるって言ってた」
善子「すごいわね…そんな何年も前の約束を」
果南「…曜の時はずっと止まってるんだよ」
果南「ううん、曜だけじゃない、千歌もそう、ダイヤもそう、私だってそう」
果南「何年も何年もサファイアを弔い続けてる」
善子「でも…昔を忘れないのも大事なことよ」
果南「忘れないだけならよかった。でも違うんだよ、
いつもいつも心のどこかでサファイアを思い出しながら、後悔しながら悲しみながら生活してる」
果南「私がなんで毎日ダイビングしてるか知ってる?」
果南「サファイアが死んですぐの頃にね、ダイヤが、海に毎日通うようになったの」
果南「学校が終わったら、習い事も宿題も全部投げ出して、真っ直ぐに海に行って、
泳ぐわけでも遊ぶわけでもなく、ずっとずっと海を眺めてるの」
果南「大人達は『妹を探しているんだろう、気の毒だ』って噂してて」
果南「ダイヤのお母さんもルビィもすごく心配しててね」
果南「だからね、私聞いたんだ。『なにしてるの?』って」
果南「そしたらね、ダイヤがこう言うんだよ『サファイアが寂しくないように、毎日会いに来てるの』って」
果南「もう私、なんて言ったらいいか分かんなくてさ…」
果南「でも、このままじゃいけないってことだけは分かってた。だからこう言ったんだ」
果南『お母さんも、ルビィも心配してるよ、もうやめなよ。代わりに私がサファイアと遊んであげるから』
果南「ダイヤもしぶしぶ承諾してくれて、私は毎日ダイビングするようになって」
果南「それがずっと続いてる」
果南「ずっと…」
善子「…」
ー昼休憩、空き教室ー
鞠莉「どうしたの?こんなところに呼び出して。もしかして愛の告白?」
善子「んなわけないでしょ!」
善子「相談があるの、」
鞠莉「相談?」
善子「花丸と果南から聞いたの、8年前の事故の話」
善子「サファイアさんが私に似てるってことも、みんなの時が8年間止まってることも」
鞠莉「Huh…それで?」
善子「私、なんとかしたいの。みんなの時を動かしたい。だから…協力して」
鞠莉「みんなの時を動かす、ねえ…」
鞠莉「具体的に何をしようと思ってるの?」
善子「それは…」
鞠莉「…はぁ、私はね、そんなこと不可能だと思ってるわ。他人がどうこうできる話じゃない」
鞠莉「泣き止むまで、落ち着くまで、待つしかないのよ。こればっかりはね」
善子「でも…」
鞠莉「ヨハネ、あなたは優しい子よ。自分を見てみんなが泣くから、自分がなんとかしなくちゃと思ってる」
鞠莉「違う?」
善子「…」
鞠莉「でもね、みんなあなたを見て泣いてるんじゃない。あなたを通してサファイアを見て泣いてるの」
鞠莉「そうしたら、どうしようもないの。わかるでしょ?」
善子「…うん」
鞠莉「つらいでしょうけど、黙って見守るしかないの」
鞠莉「ほんと…困った話だわ」
そういう鞠莉の表情は、困ったというより悲しいといった方が適切なように思えた。
鞠莉も、私と同じようになんとかしようと思っていたことがあったのだろうか。
なんとなく、そう思わせるような表情をしていた。
ー墓地ー
ルビィ「それでね〜千歌ちゃんがね」モグモグ
ダイママ「ルビィ、ちゃんと飲み込んでから話しなさい」
ダイパパ「ダイヤは弁当食べなくていいのか」
ルビィ「おねいちゃんはさっちゃんとお話するから後でいいって」モグモグ
ダイママ「ルビィ」
ルビィ「ゴクン はーい」
ーーーーー
ダイヤ「そうそう、私、スクールアイドル始めたのよ」
ダイヤ「学校の部活動でアイドルをするのよ、しかも私が。おかしな話でしょう?」
ダイヤ「千歌が言い出しっぺで、次に果南が巻き込まれて、ルビィやマルちゃんも曜ちゃんも鞠莉まで引き込んだのよ」
ダイヤ「それに沼津や東京からきた都会の子も」
ダイヤ「私は最初反対してたのよ。なのにいつの間にかフリフリヒラヒラの服を着て踊ってる」
ダイヤ「…ここだけの話、案外楽しいんですよ」
ダイヤ「サファイアともスクールアイドル、やってみたかったわ」
ダイヤ「そう、スクールアイドルといえば、メンバーの中にヨハネちゃんって子がいてね…」
ー浦の星、昼休憩ー
果南「おかえり〜どこいってたの?」
鞠莉「ヨハネちゃんに呼ばれてね」
果南「…やっぱり、困らせちゃったか」
鞠莉「やっぱりってねえ…自覚あるんだったら最初からするんじゃありません」
果南「うん、ごめんね」
鞠莉「私じゃなくてヨハネに謝りなさい」
果南「ううん、鞠莉も心配かけちゃってごめんね」
鞠莉「…私、果南のそういうところ嫌いだわ」ハァ
果南「えぇ〜どうしてー」
鞠莉「どうしてもよ」
鞠莉「しょうがないわね…ヨハネと梨子に連絡しましょう」
『放課後部室集合〜こなかったら後日パイ投げしま〜す』
鞠莉「これでよし」
ー放課後、部室ー
鞠莉「ヨハネ、梨子、よく来てくれたわ」
善子「…」
梨子「あの、私、なんで呼ばれたのか未だによく分かってなくて…」
鞠莉「それは今から説明するわ。私の要件はただひとつ…」
鞠莉「夏休みのホームパ〜リィどうする!?!?」
.
よしりこ「…」
善子「びっくりしたわ!!!」
善子「ラインで集合かけられてやって来てみたら、神妙な面持ちで腕組んで座ってるから、事件でも起きたのかなって思っちゃったじゃない!!!!」
善子「びっくりしたわ!!!!」
鞠莉「Oh〜落ち着いて、2回驚くほどのことじゃないわ」
善子「しかも夏休みにパーティやるとか初耳だわ!!」
鞠莉「だって3時間前に決めたもの」
善子「アメリカ人そういうとこ!そういうとこよ!!!!」
鞠莉「ごはんとスィーツはmustとして、サプライズで派手なことやりたくない?」
善子「聞きなさいよ!」
梨子「鞠莉ちゃんの家でやるの?」ワクワク
鞠莉「Off course!」
鞠莉「マリーは小原家を全面的に幽霊屋敷にするのなんかいいと思うんだけど〜」
善子「宿泊客とパパの気持ちもうちょっと考えてあげて」
鞠莉「もー文句ばっかね!」プンプン
鞠莉「いいわ!何するかはショッピングしながら考えましょ」
鞠莉「Let's go!!」
善子「人の都合ぐらい聞きなさいよ〜!!!」
ー沼津、ショッピングモールー
鞠莉「やっぱり、こういうチープなパーティグッズの方が雰囲気あるのよね」
鞠莉の両手にはパーティグッズやアイスやお菓子がいっぱいいっぱい詰まったビニール袋がある。
善子「ネットで買ったほうが安かったんじゃない?」
鞠莉「手に取って買いたい派なのよ」
梨子「あの、1つ持つよ、袋」
鞠莉「んー?いいのいいの、付き合わせてるんだから」
善子「それ淡島まで持って帰るつもり?」
鞠莉「まぁちょっとheavyだけど、持ち帰れないほどじゃないわよ」
鞠莉「それより歩き疲れたわね〜どこかで休憩したいわ」
善子「休憩は無理だと思うわよ」
鞠莉「Why?カフェだってフードコートだってあるじゃない」
善子「それはね…」
善子「私がいるからよ…」
鞠莉「Oh…平日の夕方なのに…」
梨子「フードコートが満席…」
鞠莉「How unlucky you are…」
善子「…」
善子「それで、結局こうなるのね…」
ー津島家ー
梨子「ごめんね、おじゃまして…」
善子「いいのよ、お邪魔しに来た張本人はあんだけくつろいでるんだから」
鞠莉「ヨハネ!このcuteなキャラクターはなぁに?」
善子「あーそれはヨハネの使い魔を型どった人形よ」
鞠莉「んー本棚も豪華ね!魔術書ばっかね!予想通り!」
善子「褒められてるのか貶されてるのか分からないんだけど」
鞠莉「ん?ヨハネ伝道記…?one two …5冊もあるわ」
善子「あっそれは…!」
鞠莉「???」ペラッ
鞠莉「Oh〜!リトルヨハネじゃない!!」
善子「遅かった…」
ヨハネ伝道記、またの名を、ヨハネ成長アルバムという。
梨子「小さい頃のよっちゃん…かわいい」
鞠莉「1巻から順番に見ていきましょう!」
梨子「…」コクコク
マリーが新しいおもちゃを見つけたようにアルバムを取り出す
リリーの鼻息がいつになく荒いのは気のせいだと信じたい
善子「もう好きにしなさい…」
鞠莉「ベイビーヨハネ…なんかどの写真も口が開いてるわね」
梨子「よっちゃんって、首にほくろがお星さまみたいに並んでるんだね」
鞠莉「0歳のころの写真何枚あるのかしら…軽く200枚は超えてるわよ」
善子「パパが馬鹿みたいに撮って全部現像してたらしいから」
梨子「ピンぼけしてる写真もいっぱいあるね」
鞠莉「親バカね〜」ペラッペラ
鞠莉が1冊目を梨子に渡して、2冊目を開く。
鞠莉「うわっ幼稚園の運動会の写真50枚くらいあるわよ…小学校の参観日の写真も……ん?」
鞠莉「これ、小学校の入学式の写真が1枚もないけどどうして?」
善子「あー、なんか引越しのときに全部なくなったとかって言ってた気が…」
鞠莉「へぇ…」
梨子「ふふっよっちゃんのお父さんって、おっちょこちょいなんだね」
善子「どうして??」
梨子「だって、何十枚もの写真なくしちゃうし…」
梨子「それに、この写真全部日付が3年前になってるんだよ」
梨子「きっとヨハネちゃんばっかりに目がいってカメラの日付設定を確認してなかったんだね」
鞠莉「!!!?」
鞠莉「ちょっと梨子、1冊目、かしてちょうだい」
梨子「?はい」
鞠莉が梨子を押しのけてアルバムを無造作にめくる。
善子「ちょっとちょっと大切に扱ってよ」
鞠莉「…!!!」
鞠莉「ヨハネ、動かないでちょうだい」
善子「えっちょっ?」
マリーが私の顔を両手で掴んで、私の首をまじまじと観察する。
梨子「な、なにしてるの?」
鞠莉「…ヨハネ、あなたに伝えるべきことが2つあるわ」
もよりとここで ぎぃぐい にさんじゅう てんんいんいれても 50はいない
鞠莉「First、写真がごっそり抜けてる期間があるでしょ。」
鞠莉「この空白の前の日付は『三年前』になっている。でも、空白の後の日付は『正しい』」
やめなさい
鞠莉「Second、この写真を見て、ベイビーヨハネの首には三つのほくろがあるわ」
鞠莉「でも、今のあなたの首にはほくろはひとつもない」
やめて、
鞠莉「いいえ、『空白の後のヨハネの首にほくろはひとつもない』と言った方が正確かしら」
善子「…てよ」
やめてよ、お願いだから、それ以上は
鞠莉「このベイビーは本当にヨハネなの…?」
善子「やめてって言ってるでしょ!!!!」
善子「…ほくろだって時間が経てば消えることだってあるんじゃないの?…なにを馬鹿な…」
鞠莉「…」
善子「…」
善子「…気づいてたわよ」
善子「気づいてたわよ、ずっとずっと前から、」
善子「日付がおかしいことも!無いはずのほくろがあることも!!」
善子「気づいてても、ずっと考えないようにしてたんじゃない!!!」
善子「なのに…なんで、」
梨子「よっちゃん……」
善子「こっちが聞きたいわよ…」
善子「誰…?」
善子「私は誰なの…?」
花火だいきんネンシュツだけかー
まえでもだせたよ いたいけど かなり いまも さーていしゅうにゅうがないんだからさー
|c||^.- ^|| あくあくAqoursですわ!!!
>>162
|c||^.- ^|| 早くしてくださいまし!!! >>162
おい!早く書けよ!ずっと待ってんだよこっちは! 梨子「…よっちゃん」
鞠莉「…」
鞠莉「…OK」
鞠莉「解明しましょう。その写真の謎を、」
鞠莉「ベイビーヨハネの謎を、空白の期間の謎を、」
鞠莉「堕天使ヨハネの正体を」
梨子「そんなことができるの…?」
鞠莉「できるわよ、この沼津で小原家にできないことはないわ」
鞠莉「それとも、自分の正体を知るのが怖いって言うなら無理強いはしないけど」
鞠莉「どうする?ヨハネ」
善子「…やるわ」
善子「私は私の正体を知りたい」
善子「この目で確かめたい!!!」
鞠莉「Good!よく言ったわ!!」
|c||^.- ^|| b よく帰ってきましたわね。ナイスですわ!!
ー小原家ー
鞠莉「整理するとこういうことね」
@ 誕生〜幼稚園卒業
写真:ヨハネの首に3つのほくろがある
A 幼稚園卒業後〜小3の秋
写真:1枚もない
B 小3の秋〜今
写真:首にほくろはない
鞠莉「ほくろなんてポンポン消えたりできたりするものじゃないわ」
鞠莉「@とBのヨハネは別の人物である可能性が高い」
鞠莉「そして、真相を確かめるには本人の記憶が1番の手がかりになる」
鞠莉「単刀直入に聞くけど、ヨハネは小さい頃のこと覚えている?」
善子「…覚えてないわ。なんにも」
梨子「なんにもって…いくら昔のことでも少しくらい覚えてるんじゃ」
善子「…」
鞠莉「なんでもいいの、どんな些細なことでも」
善子「本当に何も覚えてないの、」
善子「小学3年生の2月、私はこれ以上前のことはなんにも覚えてない」
善子「…まあ、その、いわゆる」
善子「記憶喪失ってやつよ」
梨子「ぇ…」
鞠莉「…」
善子「ほ、ほらっ、私って運が悪いでしょ?」
善子「だから、これも、その一つでしかないっていうか」
善子「聞いた話だと雪で滑って頭を強く打ったらしくて」
善子「堕天使として、天界にいた頃の記憶がないのは痛いとこではあるけど、生活に支障はないし」
善子「だから、」
鞠莉「わかったわ」
鞠莉「Thank you ヨハネ」
梨子「…」
私の両手が鞠莉の両手で包まれる。梨子が私の背中に優しく手を添える。
善子「礼を言われるようなことでもないわ」
精一杯の強がりだった
その日は、鞠莉ちゃんのお家に泊まることになりました。
フェリーもバスも終わっていたからです。
もっとも、便がまだあったとしても、鞠莉ちゃんは泊まらせるつもりだったらしいけど…
梨子(記憶喪失…か)
ヨハネちゃんが「堕天使ヨハネ」と名乗る理由が少し分かったような気がしました。
小学3年生のヨハネちゃんが病院で目を覚ました時、どんな気持ちだったのか
きっと、間違いなく、不安だった筈です。
自分が誰なのか、どこで生まれ、誰と育ち、何を楽しみ、どうやって生きてきたのか、何も分からない。
今の自分を構成するものを何も知らない。
小学3年生のヨハネちゃんは、
お父さんとお母さんが語った『津島善子像』を信じるしかなかったのです。
しかし、ヨハネちゃんは『津島善子像』すら信じられない状況にいました。
いえ、最初は『津島善子像』を信じて『津島善子』として生きていたのかもしれません。
しかし、ヨハネちゃんはある日
『アルバムに映る津島善子は自分ではない』ことに気づいてしまった。
お父さんとお母さんは『自分ではない、よく似た誰かの写真』を指差して
『津島善子像』を語っていたことに気づいてしまった。
そして
自分は『赤の他人』に『自分ではない誰か』として育てられている、
そう思ったのではないでしょうか。
ヨハネちゃんはどんな気持ちで6年半生きてきたのでしょうか、
自分の記憶はない、自分のことを教えてくれる人もいない、自分ではない誰かの人生を生きなくてはならない、
せめて、自分の人生を生きたいと思って『堕天使ヨハネ』と名乗ったのではないでしょうか
私は私だ、堕天使ヨハネだ、と
ヨハネちゃんはどんな気持ちで6年半生きてきたのでしょうか
どんな気持ちで…
鞠莉「Hey,なんか変なこと考えてない?」
梨子「…」
梨子「ヨハネちゃんは…?」
鞠莉「歯を磨いてすぐに、倒れるように眠ったわ」
梨子「…」
梨子「ヨハネちゃんはどんな気持ちで生きてきたのかな…」
鞠莉「そんな難しいこと、考えても仕方ないでしょう」
梨子「…」
鞠莉「ヨハネは強く生きてきて、私達はそれを支えようとしてる」
鞠莉「その事実だけで十分なんじゃない?」
梨子「そう、かな」
鞠莉「そうよ」
梨子「…」
鞠莉「…あなた達はよく似てるわ」
梨子「え?」
鞠莉「ヨハネも、梨子も、2人とも」
鞠莉「人の問題に首をつっこんで、どうにもならないことを解決しようとする、」
梨子「そんなこと…」
鞠莉「仲間想いの熱いハートを持っている」
梨子「…」
鞠莉「夜更かしは健康に良くないように、考えすぎは心に良くないわ」
鞠莉「今日はとりあえず寝ましょう?」
梨子「…はい」
鞠莉「グッモーニ〜ン!!!」
梨子「おはよう、鞠莉ちゃん、よっちゃん」
善子「…朝から元気ね」
鞠莉「朝から元気ないわね?」
善子「堕天使は朝に弱いのよ…」
ーーーーーー
鞠莉「朝食もとったことですし、早速謎解きに取り掛かりましょうか」
善子「ちょっと学校は?」
鞠莉「返上に決まってるじゃない!」
梨子「決まってるの!?」
鞠莉「善は急げ、時は金なり、」
善子「私はいいけど…」
梨子「…ふ、2人がいいなら、私もいいけど」
鞠莉「じゃあ決まりね!」
鞠莉「私としてはとりあえず、ヨハネの戸籍を確認したいのよね」
善子「戸籍?」
鞠莉「ええ、戸籍には『親の名前』『続柄』『出生地』全部が書かれているわ。つまり、」
梨子「養子縁組を組まれているか分かる…」
鞠莉「Exactly」
善子「養子…」
鞠莉「その可能性が高いことはなんとなく分かっていたでしょう?」
善子「それはね。でも、戸籍ってどうやって確認するの?」
鞠莉「今は、多くの場合コンビニですぐに確認できるわ」
鞠莉「マイナンバーカードは持ってる?」
善子「ええ、財布の中に…」
鞠莉「Good,早速、printしに行きましょ」
ーコンビニー
善子「コンビニってこんなこともできるのね」
鞠莉「えぇ、本当に便利な時代よ」
鞠莉「まずは本籍地の確認ね」
梨子「本籍地?」
鞠莉「戸籍が保管されている市町村のことよ。これが分からないと、何も出来ないのよ」
梨子「どうしてそんなに詳しいの?」
鞠莉「なんでも知ってた方が格好がつくでしょ?」
鞠莉「本籍地は『東京都千代田区…』」
梨子「東京に住んでたの?」
善子「昔ね、小5に上がる時には沼津に来てたけど」
ーーーーーー
善子「…印刷されたわ」
鞠莉「…」
善子「見るの、ホテルに帰ってからでいいかしら」
鞠莉「もちろんよ」
ーホテルー
善子「…じゃあ、見るわね」
4つ折りにした紙を開いた。
戸籍に記録されている者
【名】善子
【生年月日】平成〇年7月13日
【父】不詳
【母】不詳
【続柄】不詳
【養父】津島 △✕
【養母】津島 〇□
【続柄】養子
身分事項
出生
【出生日】不詳
【出生地】不詳
【届出日】不詳
【届出人】不詳
養子縁組
【縁組日】
【養父氏名】津島 △✕
【養母氏名】津島 〇□
【従前戸籍】東京都千代田区…
善子「…」
鞠莉「…これは」
梨子「…」
善子「不詳…って」
善子「…あぁ、そういうことね」
梨子「ぇ…?」
善子「私はもともと捨て子で、児童養護施設かなんかにいて、今のパパとママに出会って、養子縁組を組んで」
善子「記憶喪失になって、パパとママに騙されて、堕天使ヨハネになった」
善子「まあ、想像の範疇だったわよ」
善子「私は…」
善子「もともと誰でもなかったのね」
鞠莉「そうよ、」
鞠莉「あなたはもともと誰でもない」
梨子「鞠莉ちゃん!?」
鞠莉「でもね、それはあなただけじゃない」
鞠莉「この世の誰も、もともと『誰』であったかなんて決まってない」
鞠莉「みんな『誰か』になるために生きているのよ」
鞠莉「だから、あなたは堕天使ヨハネになったんじゃないの?」
善子「!」
善子「だから、私は堕天使ヨハネになった…!」
鞠莉「Yes!」
鞠莉「だから私はマリーになりました!」
梨子「私は桜内梨子のままだけど…」
鞠莉「それも1つのLife!」
鞠莉「桜内梨子にだって、リトルデーモンリリーにだって、普通怪獣りこっぴーにだってなっていいの」
梨子「り、りこっぴーって何ですか?」
善子「喰らえっ梨子ちゃんビームっっ!!!」
鞠莉「あばばばばばばば」
梨子「わたしそんなことやらないよぉ!」
善子「あははははははは」
ー浦の星、朝ー
曜「えぇ!?ギルキスみんなお休みなの!?」
ダイヤ「えぇ、昨晩ラインで連絡がありました。というか…見てないの?」
千歌「曜ちゃんのラインは時差50時間だもん」
果南「じゃ、今日は個別トレーニングだね」
曜「えぇーーつまんないよぉ」
ルビィ「3人同時に休むなんてあるんだね」
花丸「夏風邪ずら?」
ダイヤ「いえ、おそらく…」
「「「サボり…」」」
ーーーーーー
鞠莉「Look!フジヤマよ!」
善子「毎日見てるじゃない」
鞠莉「淡島で見るのと、新幹線から見るのじゃ意味が違うでしょ!」
ー新幹線ー
梨子「平日のお昼にどうして新幹線に乗ってるんだろう…」
鞠莉「あら、言ったでしょう」
鞠莉「ヨハネの育った養護施設を訪問するって」
梨子「そういう意味じゃなくて…」
善子「従前戸籍が養護施設の住所になっててラッキーだったわね」
鞠莉「えぇ、試しに調べてみたらドンピシャでびっくりよ。ネット様々ね」
善子「便利な世の中ね〜」
梨子「…」
ー東京駅ー
よしまり「着いた〜!!!」
梨子「…じゃあJRに」
善子「え、電車に乗るの?」
鞠莉「歩いて30分しかかからないわよ?」
梨子「本当に、2人とも都会出身なんだよね?」
ー児童養護施設ー
善子「ここが我が翼が解き放たれる故、破られし場所…」ゴクリ
梨子「勝手に入っちゃってよかったのかな…」
鞠莉「ごめんくださーい」
「はーい」
先生「こんにちは、あら、学生さん?」
建物の奥から70くらいの女性が出てきた。
鞠莉「はい、お忙しい中すみません。少しお時間いただけないでしょうか」
善子「あの、私、ここで昔、暮らしていて、聞きたいことがあって…」
先生「ここで…ごめんなさい、お名前教えていただけるかしら。年をとると色々忘れてしまってねぇ」
善子「な、名前…は」
善子「よ、よ、よh…」
先生「よ?」
善子「よ…」
先生「あぁ、思い出した。善子ちゃんだね?」
先生「よく来たねえ、今は高校生かしら?」
善子「は、はい」
先生「ほら、上がって、そこのあなた達も。飲み物は何がいい?」
梨子「あ、いえ、お構いなk…」
鞠莉「じゃあコーヒーをお願いします」
梨子「うぅ…」
キマシタワ━━━|c||^.- ^||━|c||^.- |━|c||^.|━| |━| ^||━|.- ^||━||^.- ^|b|━━━!!!
>>239
【縁組日】平成△年□月〇日
を付け足しといてください 先生「善子ちゃんがここに来た時のこと?」
善子「はい、よく覚えていなくて…両親も詳しくは話してくれなくて」
先生「…そうね」
先生「善子ちゃんがここに来た時のことは、今でもよく覚えているわ」
ーーーーーーーーーーー
ー8年前ー
新米先生「新しい子?」
先生「えぇ、明日お迎えに行くのよ。どうも複雑な事情を抱えている子みたいでね」
新米「複雑って…ここにいる子の大半はそうですけど、どんな子なんですか?」
先生「それがね、どうも記憶喪失の子らしいのよ」
新米「記憶喪失?」
先生「えぇ、道路で倒れている所を保護されてね」
先生「意識はすぐに取り戻したらしいんだけど、記憶がなんにもないらしくて」
先生「小学校低学年くらいの子だそうよ」
新米「そんな小さい子どもが行方不明になったら、捜索願いが届けられてるんじゃ…」
先生「警察は、その子は虐待されてたと推測してるそうよ」
先生「ボロボロの服に、傷だらけの体、細い手足」
先生「もし、虐待されていたんだとしたら、捜索願いが出てなくてもおかしくないわ」
先生「若しかしたら、出生届けも出されてないかもしれない」
新米「そんな…じゃあ、その子の名前は」
先生「仮の名前は『音坂善子』ちゃん。音ノ木坂で保護されたから、音坂だそうよ」
ーーーーーー
先生「善子ちゃんは本当にいい子でねぇ…私がお迎えに行った時も、」
先生「騒ぐことも、嫌がる素振りも見せないで、私の手を握ってくれたわ」
善子「ちょっと待って…記憶喪失?」
鞠莉「ヨハネが記憶喪失になったのは、義父母さんに引き取られた後の話でしょう?」
先生「えぇ、今のご両親に引き取られてからも、善子ちゃんは記憶喪失になってる」
先生「善子ちゃん…あなたは2回記憶喪失になってるの」
「「「!!?」」」
善子「2回…!?」
先生「ええ、」
先生「1回目は8年前の夏になんらかの事故で」
先生「2回目は8年前の冬に雪で滑って頭を強く打って」
善子「そんな…」
先生「その様子だと、1回目の記憶喪失については何も知らないみたいね」
先生「いいえ…2回目の記憶喪失以前のことは何も知らされていないのでしょう?」
善子「…はい」
善子「私は、津島家で、実の子として、お母さんがお腹を痛めて産んだ子どもとして、育てられました」
善子「でも、違いました」
先生「…」
善子「辛い事実なのは分かってます。私が傷つくことも分かっています」
善子「でも、私は本当のことを知りたいんです」
善子「先生だけが、頼りなんです…!だから、全部話していただけませんか」
先生「…」
先生「…」
先生「…津島さんちには、昔、血の繋がったお子さんがいてね」
先生「本当に溺愛されていて、中の良い親子だったそうよ」
先生「でも、その子は小学校に上がる直前に亡くなったの…交通事故で」
善子「…!」
先生「その子が亡くなってからは毎日が絶望に覆われていたと、そう仰っていたわ」
先生「何も変わらないまま、その子が亡くなってから、3年の月日が経ち」
先生「津島さんは、出勤の途中、この園の前を通りがかった」
先生「その時、あなたを見つけたそうよ」
先生「亡くなった娘にそっくりなあなたを」
善子「!!」
先生「津島さんは、生き写しだ、もしかして生まれ変わり、いや本人かもしれないとすら思ったそうよ」
先生「その週末には、ご主人と一緒に施設にいらっしゃたわ」
先生「そしてこう仰った」
『あの子をうちの子にさせてください』
先生「亡くなった娘と瓜二つなんだ」
先生「これは奇跡だって、そう仰っていたわ」
善子「奇跡…」
`¶cリ˘ヮ゚)| 堕天使ヨハネは脱いでもすごいんだから
/フフ ム`ヽ
/ ノ) ) ヽ
゙/ | `¶cリ˘ヮ゚)ノ⌒(ゝ._,ノ
/ ノ⌒7⌒ヽーく \ /
丶_ ノ 。 ノ、 。|/
`ヽ `ー-'´_人`ー'ノ
丶  ̄ _人'彡ノ
ノ r'十ヽ/
/`ヽ_/ 十∨、