『動脈硬化のペニシリン“スタチンの発見と開発 ― 遠藤 章先生に聞く』
https://www.jhf.or.jp/shinzo/mth/images/History-37-8.pdf スタチンは現在,世界中で約3,000万人の患者さんに毎日投与されています.
スタチンの年間売り上げは,邦貨換算で約 2 兆8,000億円にもなります.
治療を受ける患者さんの数も売り上げも,これほどの実績を上げるとは思っていませんでした.
『なぜ日本企業は累計3000億ドル以上、「スタチン」の売上を得られなかったのか?
「偽の失敗」を見極めてイノベーションを育む』
アドタイ 鈴木健(ニューバランス ジャパン マーケティング部長) 2022.03.01 掲載
https://www.advertimes.com/20220301/article378045/ 「失敗から学ぶ」を、さらに考える
日本人と無縁ではないのは、心臓病の原因となる血液中のコレステロールを下げる「スタチン」は、その最初の発見者が日本の製薬会社の三共(当時)に勤める研究者遠藤章氏だったにも関わらず、「スタチン」が生み出した累計3000億ドル以上(30兆円)にものぼる売上は、ほとんど日本に利益をもたらさなかったというエピソードです(その売り上げは米製薬企業のメルクが生み出し、またスタチンを同時期に研究していた米のブラウンとゴールドスタインはノーベル賞を受賞)。
その主な原因は、失敗を乗り越えられなかった日本、特に「偽の失敗」によるものだとバーコールは指摘します。
20世紀最大の医学的イノベーションを成功に導けなかった日本
遠藤氏はスタチンのなかで、後にメバスタチンと呼ばれる分子を菌類から発見しますが当時、米国の心臓病研究で「コレステロール値を薬剤で下げる」という考えは、他の臨床試験の結果が悪かったこともあり、カンファレンスでも冷笑をあびる結果となりました(1回目の死)。
遠藤氏はそれでもメバスタチンによるマウスを使った動物実験を実施しましたが、検証できませんでした(2回目の死)。
ですが、別の部署の同僚である北野訓敏氏と酒場で話しているとき、別のプロジェクトで北野氏が使ったニワトリを、そのあと遠藤氏の実験に使わせてもらえることになります。そして、この結果でメバスタチンの効果が示され、さらにその他の動物実験でも良い結果がでて、三共製薬は臨床試験を開始します。
ですが、同社の安全性試験のひとつでイヌにがんが発生することが認められ、臨床試験が中止になってしまいます。遠藤氏はこの時点では三共製薬を退いて研究・指導職についており、彼はその結果をうたがいつつも開発中止を眺めるしかありませんでした(3回目の死)。
同時期にコレステロール値低下の研究していた米の研究者、ブラウン氏とゴールドスタイン氏は、遠藤氏の研究と自分たちが目指しているものが同じと認識し、メバスタチンのサンプルを遠藤氏から協力して送ってもらいその効果を確認していました。また米の製薬会社メルクも、三共製薬と遠藤氏に協業を提案し、数々のデータを提供してもらっただけでなく、独自にメバスタチンによく似た化合物を発見していました。ですが、メルクも三共製薬での安全性試験が失敗したという噂を知り、自分たちのスタチンの臨床試験を中止するように指示していました。
ここに異を唱えたのが、ブラウン氏とゴールドスタイン氏であり、彼らは独自の実験でそのイヌのがんが「偽の失敗」であることを示しました。メルクは臨床試験を再開することになり最終的にFDA(アメリカ食品医薬品局)に承認されたのです。そして最終的にメバコールとしてメルクから発売されました。スタチンは心臓発作や脳卒中を減らし、生存期間を延ばす効果があり、20世紀最大の医学的発見と呼ばれるほどのものになったのです。メルクはスタチン関連の医薬品で毎年900億ドルの売上を上げ、また累計3000億ドル以上もの売り上げをもたらしたと言われているのです。
もちろん、その少しも日本の三共製薬や遠藤氏には還元されることはありませんでした(のちにブラウン氏とゴールドスタイン氏は、遠藤氏の貢献を評価し、2008年に同氏に「ラスカー・ドゥベーキー臨床医学研究賞」を贈賞したそうです)。