[ネタバレ] 中途半端なミスリードですべてが台無しに
2018年10月25日 16時21分
閲覧数:636 役立ち度:46
総合評価:★★★★★
SKEのファンではない。いや少なくとも松井玲
奈や矢神久美、秦佐和子がいた頃はCDを買いテ
レビのチャンネルを合わせていた訳だから元フ
ァンではある。ただ最近はSKEはおろかAKBもよくわからなくなった。そんな自分がなぜ劇場
に足を運んだかと言えば、あの総選挙を地に落
とした出来事の裏話が何か語られるかも知れな
いという好奇心からだ。
映画の序盤、カメラは栄光の時代を過ぎた現在
のSKEのメンバーがもう一度巻き返すために、
それぞれ悩み、考え、努力している姿を丁寧に
追う。須田亜香里のダスノートは旧知の事では
あったが、彼女が今の地位にまで上り詰めた理由を当然の結果と思わせる説得力があったし、大場美奈が営業活動を発案する様は彼女が心底
からSKEに帰化しSKEを愛している事を教えてくれた。そしてキャプテン斉藤真木子の葛藤は現在のSKEをよく知らない私にもさもあろうと思
わせ、そうした想いをすべて飲み込んで高柳明音が発する「SKEは今が一番楽しい」の一言は、とても深く熱いメッセージと受け取れた。正直に言えば、ここまでで私は幾度となく目頭
を熱くして頬を涙で濡らしていた。
そうして松井珠理奈である。彼女が最後の同期生である大矢真那の卒業により壊れ始めたという切り口は納得でき、段々と壊れていく彼女の
様子に他のメンバーも気付いていて、不安や予感のようなものを抱えていたという証言は、正
に私がこの映画に求めていたものでもあり、この時点までは本当にこの映画を楽しんでいた。
しかし総選挙当日の描写に、私の期待はあっさりと裏切られた。当日、松井珠理奈が壊れてい
た事を示すシーンは彼女が舞台上で倒れるシーンのみ、一方でメンバーが語る「松井珠理奈はリハーサルから手を抜く事を嫌う」というイン
タビューの声に被せて、カメラは前日にまだ振りが入りきっていない宮脇咲良の姿を映す。松井珠理奈のあの会見の背景にこれがあったのか
とミスリードをさせたい監督の編集意図は見え見えだった。
だけど、観客は皆あの日何があったのかを散々
観ている訳である。松井珠理奈に恫喝される宮脇咲良の姿も、それまで当日のコンサート本番
の中で宮脇咲良が特にミスらしいミスを犯していない事も、そして何より松井珠理奈自身が当
日のステージでいくつもやらかしていた事も、コンサートの現場や生中継のテレビ放送や、ネ
ットの映像で既に散々目にしているのだ。けれどもそれらのシーンはスクリーンにまったく登場しない。
ドキュメンタリーは、どのシーンとどのシーンを拾い、どう繋ぐかで、監督の語りたいメッセ
ージを観客に伝えてくれる。しかし、それと同時にどのシーンを削ったかで、監督の隠したい
真実や監督が観客に語る嘘の量も教えてくれるのだ。
この映画は都合の悪い真実は語らない。それを悟ってしまった時点で、映画の後半にメンバー
たちが松井珠理奈の穴を埋めるべく奮闘する姿や、松井珠理奈の存在の大きさを語る言葉は、
すべてが嘘っぽく色褪せたものになってしまった。
斉藤真木子が新米のメンバーに語る「仕事なんだよ。練習は頑張ったけど本番で失敗しました
ってお客さんに許しを請うの?」という叱責は、それ松井珠理奈にこそ言えよとさえ感じ、復帰した松井珠理奈に反省も後悔も語らせる事
なく、ただただ彼女が歌い踊る姿をカメラが追う事には軽い苛立ちさえ感じた。
かつて、震災直後の壊れてしまった日本と初めての大舞台に飲み込まれて壊れていくAKBメン
バーを重ね合わせて、それでもフライングゲットの初披露の瞬間にぼろぼろになりながら笑顔で立ち上がる前田敦子の姿を捉え、未曾有の事
態だからこそ、笑顔を届ける事の重要性を知ら
しめてくれたAKBのドキュメンタリー映画とは雲泥の差である。
映画が終わった後、私の目や頬は序盤に流した涙がすっかりと乾いていた。ラストカットで高
柳明音がつぶやいた問い掛け。数多録ったであ
ろうメンバーの言葉からこの映画の監督が選ん
だその一言は、この監督がこの映画のメガホンを取る前に解決して置くべきだった最初のピースだったのだと思う。
2018年10月25日 16時21分
閲覧数:636 役立ち度:46
総合評価:★★★★★
SKEのファンではない。いや少なくとも松井玲
奈や矢神久美、秦佐和子がいた頃はCDを買いテ
レビのチャンネルを合わせていた訳だから元フ
ァンではある。ただ最近はSKEはおろかAKBもよくわからなくなった。そんな自分がなぜ劇場
に足を運んだかと言えば、あの総選挙を地に落
とした出来事の裏話が何か語られるかも知れな
いという好奇心からだ。
映画の序盤、カメラは栄光の時代を過ぎた現在
のSKEのメンバーがもう一度巻き返すために、
それぞれ悩み、考え、努力している姿を丁寧に
追う。須田亜香里のダスノートは旧知の事では
あったが、彼女が今の地位にまで上り詰めた理由を当然の結果と思わせる説得力があったし、大場美奈が営業活動を発案する様は彼女が心底
からSKEに帰化しSKEを愛している事を教えてくれた。そしてキャプテン斉藤真木子の葛藤は現在のSKEをよく知らない私にもさもあろうと思
わせ、そうした想いをすべて飲み込んで高柳明音が発する「SKEは今が一番楽しい」の一言は、とても深く熱いメッセージと受け取れた。正直に言えば、ここまでで私は幾度となく目頭
を熱くして頬を涙で濡らしていた。
そうして松井珠理奈である。彼女が最後の同期生である大矢真那の卒業により壊れ始めたという切り口は納得でき、段々と壊れていく彼女の
様子に他のメンバーも気付いていて、不安や予感のようなものを抱えていたという証言は、正
に私がこの映画に求めていたものでもあり、この時点までは本当にこの映画を楽しんでいた。
しかし総選挙当日の描写に、私の期待はあっさりと裏切られた。当日、松井珠理奈が壊れてい
た事を示すシーンは彼女が舞台上で倒れるシーンのみ、一方でメンバーが語る「松井珠理奈はリハーサルから手を抜く事を嫌う」というイン
タビューの声に被せて、カメラは前日にまだ振りが入りきっていない宮脇咲良の姿を映す。松井珠理奈のあの会見の背景にこれがあったのか
とミスリードをさせたい監督の編集意図は見え見えだった。
だけど、観客は皆あの日何があったのかを散々
観ている訳である。松井珠理奈に恫喝される宮脇咲良の姿も、それまで当日のコンサート本番
の中で宮脇咲良が特にミスらしいミスを犯していない事も、そして何より松井珠理奈自身が当
日のステージでいくつもやらかしていた事も、コンサートの現場や生中継のテレビ放送や、ネ
ットの映像で既に散々目にしているのだ。けれどもそれらのシーンはスクリーンにまったく登場しない。
ドキュメンタリーは、どのシーンとどのシーンを拾い、どう繋ぐかで、監督の語りたいメッセ
ージを観客に伝えてくれる。しかし、それと同時にどのシーンを削ったかで、監督の隠したい
真実や監督が観客に語る嘘の量も教えてくれるのだ。
この映画は都合の悪い真実は語らない。それを悟ってしまった時点で、映画の後半にメンバー
たちが松井珠理奈の穴を埋めるべく奮闘する姿や、松井珠理奈の存在の大きさを語る言葉は、
すべてが嘘っぽく色褪せたものになってしまった。
斉藤真木子が新米のメンバーに語る「仕事なんだよ。練習は頑張ったけど本番で失敗しました
ってお客さんに許しを請うの?」という叱責は、それ松井珠理奈にこそ言えよとさえ感じ、復帰した松井珠理奈に反省も後悔も語らせる事
なく、ただただ彼女が歌い踊る姿をカメラが追う事には軽い苛立ちさえ感じた。
かつて、震災直後の壊れてしまった日本と初めての大舞台に飲み込まれて壊れていくAKBメン
バーを重ね合わせて、それでもフライングゲットの初披露の瞬間にぼろぼろになりながら笑顔で立ち上がる前田敦子の姿を捉え、未曾有の事
態だからこそ、笑顔を届ける事の重要性を知ら
しめてくれたAKBのドキュメンタリー映画とは雲泥の差である。
映画が終わった後、私の目や頬は序盤に流した涙がすっかりと乾いていた。ラストカットで高
柳明音がつぶやいた問い掛け。数多録ったであ
ろうメンバーの言葉からこの映画の監督が選ん
だその一言は、この監督がこの映画のメガホンを取る前に解決して置くべきだった最初のピースだったのだと思う。