
韓国で太宰治の小説『人間失格』が100刷を突破した。特段マーケティングに力を入れたわけでもないのに昨年から販売部数が伸び、出版社「民音(ミヌム)社」も「理由はミステリー」と当惑している。一方、読者の意見を聞くと、コロナ禍で閉塞感を感じる若者たちの共感を呼んでいるようだ。
民音社では「世界文学全集」シリーズの1冊として2004年に『人間失格』を発売して以来、コンスタントに売れていたが、昨年初めから販売部数が伸び、今年5月に100刷を突破した。6月に新たな装丁で『人間失格』100刷記念特別版を出版し、注目を集めている。民音社1社で30万部以上売れているが、民音社以外のいくつかの韓国の出版社が『人間失格』を出しているので、総販売部数ははるかに多い。
『人間失格』は夏目漱石の『こころ』と共に日本で最も売れている小説で、そのことは韓国でもある程度知られている。「世界文学全集」に入っているのも、多くの人が手に取る理由だ。
同シリーズには、『人間失格』のほか太宰治の『斜陽』『走れメロス』、夏目漱石の『それから』、村上春樹の『ノルウェイの森』、芥川龍之介の『羅生門』などの日本の小説があるが、『人間失格』の最近の売れ方は別格だ。民音社の『人間失格』は昨年だけで7万部以上売れた。
昨年、『人間失格』というタイトルのドラマが韓国で放送されたが、小説とは関係のない内容で、視聴率も低かったため、このドラマの影響だけではなさそうだ。韓国の新聞『朝鮮日報』(2021年11月4日付)も「『人間失格』ミステリー」という見出しで、理由の明確でない『人間失格』人気について報じている。
『人間失格』は大庭葉蔵という男性の手記として綴られ、「恥の多い生涯を送って来ました」という手記の書き出しに象徴されるように、葉蔵が自分自身を「人間失格」と評している。『朝鮮日報』の記事では、人気の理由について「人間の偽善や虚飾を理解するのが難しく、関係を結ぶことが苦手な葉蔵に最近の若者が自分を投影している」という分析を載せていた。記事によれば、20代女性の読者が多いようだ。
https://globe.asahi.com/article/14663216