YouTubeで人気のコンテンツ群に30秒から1分間の「ショート動画」と呼ばれる動画がある。なぜこんなに短い動画が好まれているのか。文筆家の御田寺圭さんは「今の若い世代は、効率性、生産性、合理性を求める時代精神とともに生きてきた。短時間で消費できるコンテンツの台頭はその時代精神の象徴である」という――。
今の若者は「効率的」に生きることを求められている
(中略)
かれらはつねにタスクが詰まった忙しい日々のなかで生きている。けっして潤沢に与えられているわけではない有限の可処分時間のなかで、インターネットやソーシャルメディアを介して、毎日大量に供給される娯楽コンテンツの消費に追われている。
限られた時間で「ノルマ」のようにコンテンツを消費する
若者たちは学業や仕事に打ち込むかたわら、YouTubeやTikTokやInstagramに毎日大量にアップされるお気に入りのインフルエンサーによる新着コンテンツの消費を急かされている。それらのコンテンツを楽しんで終わりではなくて、そのコンテンツをもとに友人たちとコミュニケーションを取っている。かれらはもちろんそうしたライフスタイルを楽しんではいるのだが、はたから見ればコンテンツの効率的な消費を「ノルマ化」されているようにも見える。
世の中にすでに存在している娯楽コンテンツの総量はすさまじく、またソーシャルメディアやコンテンツプラットフォームが普及したことによって、だれもが気軽にクリエイターになれる時代となり、毎日の娯楽コンテンツの供給量も加速度的に増大している。すでにひとりの人間の寿命すべてをコンテンツ消費に回してもまったく足りないほどになっていると言っても過言ではない。
与えられた時間のなかで、できるだけたくさんの「楽しい」をコスパよく回収してまわる――効率的に最適化されたこうしたコンテンツ消費スタイルが、いまの若者たちにはごく自然な生活様式として共有されている。
YouTubeで人気なのは「30秒〜1分間」の動画
若者たちに人気を集める動画投稿プラットフォームであるYouTubeでは、ますます「効率性」への先鋭化が進んでいる。
YouTube内で、新たなトレンドの中心にあるのは「ショート動画(Shorts)」と呼ばれる、ひとつにつき長くても30秒から1分間の動画群であることは、上の世代の人びとにはあまり知られていない。
これまで数十分以上の動画を主として配信していたHIKAKINをはじめとする著名なYouTuberたちもこの潮流に対応している。数十分の長さの通常動画のほかにも、数多くの「ショート動画」を断続的にリリースしている。それらも通常動画と同じかそれ以上の再生回数を叩き出す。以前なら、視聴者が数分から数十分見続けなければやってこなかった「楽しさ」が、数十秒に凝縮されて提供される。これほど効率的なものはない。しかも近頃では、通常動画も倍速で視聴されていることがもっぱらだ。楽しい動画を見ているときにさえ、若者たちは《なにか》に追われている。
10分程度の動画でも「見ていられない」
若者はもはやYouTubeの10分程度の動画でも「長い」「見ていられない」と感じるようになっている。それくらいに切羽詰まった毎日を生きている。かれらは「楽しみ方や攻略法を試行錯誤の末に発見する」とか「楽しいと思えるものが見つかるまで、そのジャンルにとどまり続けて、まだ見ぬ作品を試行錯誤して掘り出していく」といった作業をあまり好まない。いや、好まないというか、そんな時間的・精神的余裕がないからできない。
お気に入りのクリエイターやインフルエンサーが発信するコンテンツを効率よく周回しなければ、次のコンテンツがまた大量にやってきてしまう。試行錯誤したり、立ち止まってじっくり考えたり、考察を深めたり、同好の士と夜通し議論を交わしたりする時間はどんどん失われている。さながら、泳ぐのをやめれば息が詰まってしまう鮫さめのように。
「効率性・生産性・合理性」を求める時代精神のあらわれ
(中略)
効率的であれ、生産的であれ、合理的であれという時代精神とともに生きてきた若者は「無駄を楽しむ」「ゆっくりと楽しむ」「失敗を楽しむ」という営みにしばしば苦痛を感じてしまう。「こんなことをしている場合じゃないのでは?」と焦燥感に駆られてしまう。YouTube、ショート動画、切り抜き動画、ファスト映画、TikTokなどの台頭は、「効率性・生産性・合理性」が人間の価値を測る時代精神の鏡映しである。
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