「性的指向を変えたい」29歳男性が見た深い断絶 | ボクらは「貧困強制社会」を生きている | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
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(前略
ケンイチさんはセクシャルマイノリティーである。ただ、LGBTのどれにも当てはまらない。強いていうならばLGBTQのQが近いという。Qとはクエスチョニング。性的指向や性自認を決めたくない人や、どのセクシャリティーもピンとこない人などのことを指す。
どういうことなのか――。ケンイチさんによると、自分にとってかわいいな、付き合いたいなと思う対象は女性だ。好みの女性と親しくなれればうれしいし、ドキドキもする。しかし、性的に興奮しない。一方で男性から話しかけられたり、触れられたりすると性的にひかれるのだという。
いまひとつピンと来ていない様子の私を見て、ケンイチさんが説明を続ける。
「私の性自認は男性です。一方で生々しい話で申し訳ないのですが――。(男性向けの)風俗を利用したとき、満足感はあったのですが、セックスは薬(勃起障害治療薬)がなければできませんでした。一方でゲイの男性からスキンシップをされると、異性愛者の男性が覚えるであろう違和感もあるのですが、同時に性的な魅力も感じます」
少し専門的な言葉になるが、ケンイチさんのセクシャリティーは「恋愛的(ロマンティック)な指向」は女性に、「性的(セクシャル)な指向」は男性に、それぞれ向いている状態にある、と説明することができる。このように2つの指向が一致しないセクシャリティーを持つ人は一定数、存在するともいわれる。
ただ、マイノリティー中のマイノリティーであることに違いはなく、ケンイチさんに言わせると「好きになって、両想いになって、触れ合いたいと思って、セックスに至るという、当たり前の一連の反応が自分の脳内では起きない」。このため、異性愛者やLGBTの人たちのように「一連の流れに乗って」パートナーと関係を築くことができないというのだ。
「だから、性的指向を変えることで異性愛にそろえたいんです。脳科学の研究により性的指向は脳機能と関係があることが解明されつつあります。今なら効果のある薬もあるのではないかと、いろいろと試しているのですが、あれもダメ、これもダメの繰り返しで……。
こんな中途半端なセクシャリティーでは恋愛もできない。かといって打ち明けることができる親しい友人もいない。人恋しさは人一倍感じますが、たぶん一生独りだと思います」
子どものころから人付き合いは得意ではなかったが、学校の成績はよかった。私立の中高一貫校に進学。このころは「アダルトビデオを見てドキドキしたし、初恋の相手も女性だったので、自分がセクシャルマイノリティーだとは思いもしませんでした」。
その後、有名国立大学に入学。研究室で実験に精を出す日々だったが、教授に叱責されることが多く、うつ病を発症した。セクシャリティーの問題とは別に、実験では試薬の配合を間違えるなどのミスが多く、飲食店でのアルバイトでは複数の注文がさばけないといった傾向があったことから「自分は発達障害なのでは」との疑念もあったという。