「ニッポン半導体」首位奪還遠く 東芝メモリ売却完了
東芝の半導体メモリー子会社「東芝メモリ」が1日、米投資ファンドのベインキャピタル率いる「日米韓連合」傘下となった。
筆頭株主はベインだが、東芝も4割の株式を持ち日本勢で過半を出資する。
同社はかつて世界を席巻した日本の半導体産業の「最後のとりで」。しかし、韓国サムスン電子からの首位奪還の道筋はみえず、下からは中国勢が急ピッチで追い上げる。
東芝は1日、日米韓連合に対する東芝メモリの売却手続きが完了したと発表した。東芝に加えHOYAが出資することで日本勢が50.1%の出資を維持する。
米原発事業で巨額の損失が発覚し、2017年2月に始めたメモリー事業の売却がようやく決着した。
半導体事業の売上高は1990年には世界上位10社にNECや日立製作所、東芝など6社の日本企業が名を連ねていた。17年で上位10社に入ったのは、メモリー事業を傘下に置いていた東芝のみだ。
日本勢が得意とした高性能DRAMが世界的な価格競争にさらされる。日本の半導体メーカーは再編の末に淘汰されていった。
NEC、日立、三菱電機のDRAM事業を統合したエルピーダメモリは市況の悪化を受け12年に経営破綻。
システムLSIを統合したルネサスエレクトロニクスは11年の東日本大震災とその後の円高で経営危機に陥り、大規模リストラに追い込まれた。
そのなか、東芝が競争力を維持できたのは、フラッシュメモリーを発明した企業として他社と一線を画す技術力があったからだ。
今後も、世界での競争力を保つには技術開発で他社に一歩、先んじる必要がある。記憶容量を増大させるため記憶素子を積み重ねる多層化技術では、サムスンと東芝メモリの上位2社が競う。
積層が64層の製品の量産化にサムスンが16年に成功すると、東芝メモリも半年遅れの17年初頭に量産化。さらに積層数の多い96層の開発着手はサムスンに先駆けて表明した。両社とも年内に96層の量産を始める見込みだ。
今後の成長分野となるデータセンター向けでは、サムスンに比べ東芝メモリは不利な点がある。DRAMを自前で製造していないことだ。パソコン需要が頭打ちになった01年に東芝はDRAMから撤退。
しかし、データセンターではDRAMとフラッシュメモリーの組み合わせが処理能力を左右するため、セットで販売することが多い。「DRAMも展開するサムスンの方が有利」との声は多い。
下位からの追い上げも激しい。新興勢力では中国・紫光集団が32層のフラッシュメモリーの量産を予定する。
現在、中国国内で建設を進める工場への投資額は破格の2兆円超とみられる。半導体産業を国策として育成する中国政府の手厚い支援を受けた猛追は脅威だ。
フラッシュメモリーの次を見据えた次世代規格の開発も始まっている。マイクロン・テクノロジーは15年に米インテルと共同でNANDと比べ処理が速い「3D Xポイント」メモリーを発表。19年に向け製品投入を増やし、メモリー盟主の座を狙う。
東芝はメモリー事業で3位の米ウエスタンデジタル(WD)との協業を続ける。この提携関係をどう生かしていくかが今後の勝敗のカギを握りそうだ。
半導体業界での市場や企業の浮沈の激しさは「シリコンサイクル」と呼ばれる。市場の潮流を読み誤った企業は退出を迫られてきた。東芝メモリが競争力を失えば、日本の半導体産業の世界での存在感は大きくしぼむことになる。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31251000R00C18A6000000/?nf=1