対中関税、1930年代並みに 米「第4弾」1日発動
2019年9月1日 2:00 日本経済新聞
https://r.nikkei.com/article/DGXMZO49270310R30C19A8MM8000 【ワシントン=鳳山太成、北京=原田逸策】トランプ米政権は1日、中国製品に対する制裁関税「第4弾」を発動する。2018年夏から段階的に対象を広げてきた制裁関税は家電や衣料品など消費財に本格的に踏み込む。中国も同日、即座に報復する。二大貿易大国が互いに課す関税率は平均20%を超し、戦前の保護主義の時代に匹敵する貿易障壁が両国間に築かれる。18年7月から始まった米中の貿易戦争は一段と危険な段階に入る。
米ピーターソン国際経済研究所によると、米国の対中国に限った平均関税率は貿易戦争が始まるまで約3%だったが、対立激化で段階的に上昇し、1日からは21%超となる。米国が保護主義へ向かった1930年ごろの関税率も全輸入品平均で約20%だった。
保護主義が戦禍につながった反省から米国などは関税を下げて自由貿易を進めてきたが、グローバル化の揺り戻しが鮮明になってきた。世界貿易機関(WTO)によると、関税率(単純平均)が20%を超すのは中米バハマ(32%)とアフリカのスーダン(21%)のみ。保護主義で自国産業を守る途上国ばかりだ。
米国は1日から1100億ドル(約12兆円)分に相当する3243品目に15%の追加関税を課す。生活に身近な商品に本格的に追加関税がかかってくるのが第4弾の特徴だ。1日発動分の5割を消費財が占める。家具などを含んだ第3弾でもその比率は2割超だった。
とくに輸入額が大きいのは腕時計型端末スマートウオッチなどデジタル家電関連だ。米アップルの場合「iPhone」は先送りされたが「アップルウオッチ」やパソコン「iMac」は含まれる。セーターなど衣類も半分超が対象だ。
追加関税でコストは増すが、米百貨店大手メーシーズは顧客離れを恐れて値上げを見送る方針だ。中国以外で生産するプライベートブランド(PB)商品を増やす。ラルフローレンは商品在庫を積み増してきた。
米国は第4弾のうち、スマートフォンなど輸入の対中依存度が8割を超す555品目はクリスマス商戦に配慮し、12月へ発動を先送りした。対中依存度の高い商品は中国に代わる調達先を探すのが難しい。追加関税で値上げが相次ぎ、個人消費の落ち込みを通じて米国にも悪影響が跳ね返る。
中国は750億ドル分の米国からの輸入品に5〜10%の追加関税をかける。原油や大豆など1717品目は1日、自動車など3361品目は12月15日に発動する。日本経済新聞の調べでは初めて追加関税を課すのは原油など1800品目弱で全体の35%どまり。大豆や自動車など3分の2(約3300品目)は2度目だ。
米国からの輸入額の7割は関税を上乗せ済みで、あとは大型飛行機など自国産業に悪影響が及ぶ品目しか残っていないためだ。過去の米追加関税の対象品目はすでに輸入が大きく減り、関税を上乗せしても輸入抑制効果は乏しい。
米中両政府は9月上旬に閣僚級協議を開く予定だったが、中国側では「交渉態度を二転三転させるトランプ政権とは貿易協定を結ぶのが難しい」との意見もくすぶる。先行きは一段と読みにくくなっている。
戦前の高関税は保護主義をエスカレートさせて、結局は世界全体の貿易量を減少させた。WTOによると足元でも世界貿易は約9年半ぶり低水準が続く。国際通貨基金(IMF)も7月、世界全体の19年の実質経済成長率を4回連続で下方修正した。米中貿易戦争の激化がもたらす傷は深い。